名古屋市は2015年9月19日、日本で2番目のフェアトレードタウンに認定された。認定の舞台は市が主催する環境イベント「環境デーなごや」の会場である。以来10年、名古屋市は環境行政の文脈にフェアトレードを組み込むことで普及を進めてきた。だが直近の市民調査は、その手法が抱える限界も同時に映し出している。
※ 出典: 名古屋市公式サイト「フェアトレードとは」/日本フェアトレード・フォーラム 愛知県名古屋市ページ
背景
名古屋市の運動は2009年に始まった。名古屋市公式サイトによれば、市は「フェアトレード名古屋ネットワークをはじめ、市民の皆さまの活動により」2015年9月19日に日本で2番目のフェアトレードタウンとして認定されたとしている。
認定に至る道筋は、2010年に名古屋で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)と重なる。市の「生物多様性なごや戦略実行計画2030」は、COP10以降の総括のなかでフェアトレードタウンの取り組みを次のように位置づけている。
名古屋市をフェアトレードタウンにしようとする市民運動がCOP10以降に活発化し、2015年に日本で2番目のフェアトレードタウンに認定されました。
2015年、市議会が「フェアトレードの理念を支持する決議」を可決し、同年、市長が支持を表明。9月19日の認定へとつながった。
※ 出典: 名古屋市公式サイト「フェアトレードとは」/名古屋市「生物多様性なごや戦略実行計画2030」/日本フェアトレード・フォーラム 愛知県名古屋市ページ ※ 議会決議・市長表明の日付(FTFJ公式サイトでは3月10日・5月9日)は市議会の一次資料で確認できなかったため、年のみとした。 ※ 名古屋市会の「可決された意見書・決議」一覧は掲載範囲が平成28年9月定例会以降で、2015年分が載っていない。
主体
推進組織は特定非営利活動法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)である。2013年1月11日に任意団体として結成され、2016年7月にNPO法人へ移行した(登記完了は同年7月14日)。現在の代表理事は三輪昭子氏である。2021年の前回更新申請時から代表理事が交代しており、あわせて理事が9名から5名に、監事が2名から1名に縮小している。
他のフェアトレードタウンとの違いは、推進組織がNPO法人であることだ。 これは組織の性格そのものを規定している。FTNNは自らイベントの主催者になるのではなく、他団体への後援・協力という形で参画する。物販はFTNNの主たる事業とはみなされず収益事業にあたるため、拡大できない。「フェアトレードタウンなごや」という運動の実務は、市、実行委員会、会員団体、学生グループに分散しており、FTNNはそれらをつなぐ結節点として機能している。
2024年時点の役員は理事5名・監事1名。前回更新時の理事9名・監事2名から縮小している。会員は議決権を持つ正会員が54名(2023年12月31日時点)、賛助会員を含めると77名である。役員による会議を1〜2か月に1回、総会を年1回開催している。
※ 代表理事の交代は現地調査報告書の記載による。交代前の代表者名は、公開情報では確定できていないため記載していない。 ※ FTFJ公式サイトの名古屋市ページは代表理事を旧情報のままにしており、FTNN公式サイトおよび2024年更新申請書と食い違う。 ※ 出典: FTNN公式サイト「団体概要」(2026年8月27日取得)
取り組み
基準1 推進組織の設立と支持層の拡大
FTNNは役員会議を1〜2か月に1回開催して意思決定を行っている。役員の任期は2年(2023年4月〜2025年3月)。
推進組織自身が課題として挙げているのは、会員であることのメリットが作りにくいことである。イベントが実行委員会形式で運営されるため、会員がFTNNの会員であることの意味を感じにくい。現状の会員メリットはフリーペーパー「惣」の発行と、エシカル・ツキイチ・マルシェへの参加である。
基準2 運動の展開と市民の啓発
2022年から2024年の期間で、推進イベント・キャンペーンは42回、うちメディア報道は16回。
年次のイベントは大きく2つある。5月の「世界フェアトレード・デー・なごや」と、9月の「環境デーなごや 秋のフェアトレードタウンまつり」である。後者は2015年の認定の舞台となった環境デーなごやに毎年「フェアトレードひろば」が設けられる形で継続しており、市長の登壇と議員の参加が恒例になっている。2026年5月2日には第16回世界フェアトレード・デー・なごやが「コーヒーサミット」としてヒサヤオオドオリパークで開かれ、コーヒー27店舗・マルシェ26店舗が出店した。
市が主催するセミナー「フェアトレードタウンなごやのススメ」は2017年から続いている。2026年3月には第9回がスパイスをテーマに開かれた。
2025年9月13日には、フェアトレードタウン認定10周年を記念して「フェアトレード全国フォーラム2025 in 名古屋」がささしまライブエリアの3会場で開催された。主催は「環境デーなごや」実行委員会、FTNN、FTFJ。
基準3 地域社会への浸透
組織内でフェアトレード産品を利用・普及している地元組織は64カ所(前回更新時60カ所)。企業29、教育機関9、NPO・NGO 13、その他13という内訳である。
「その他」13カ所のうち大半が名古屋市の部局・施設である点は、他都市にはあまり見られない特徴だ。環境局、観光文化交流局、市民経済局、総務局、教育委員会、子ども青少年局に加えて、名古屋国際会議場、名古屋国際センター、東山動植物園、名古屋市美術館、名古屋市博物館、名古屋市科学館が並ぶ。
企業側では、ジェイアール名古屋タカシマヤの「やさしい暮らし展」、名鉄百貨店のエシカル・ツキイチ・マルシェなど、地元百貨店が催事の場を提供する形の連携が続いている。
基準4 地域活性化への貢献
「生物多様性なごや戦略実行計画2030」への位置づけ — 名古屋市が2023年10月に策定した計画に、フェアトレードが行政のロードマップとして書き込まれた。2023年から2030年まで環境局が所管して「イベント等を通したフェアトレードの理念の普及」を行うことが盛り込まれ、コラム「日々の買い物で、世の中の流れやしくみを変えていこう」では国際フェアトレード認証ラベルとWFTOラベルが「生物多様性等に配慮したラベルの例」として説明されている。
この計画を議論した市の懇談会には、FTNNの理事が委員として参加している。市民団体が行政計画の策定過程に入り、その計画に自分たちのテーマを位置づけたという構図である。
基準5 地域の店等によるフェアトレード産品の幅広い提供
フェアトレード産品を提供する商業施設は、2品目以上が124店、1品目のみが229店。基準の数え方では238.5店にあたる。人口232万人の名古屋市に必要な店舗数は233店なので、数字の上では基準を満たしている。
ただし、この期間に大きな変動があった。市内の大手コーヒーチェーンが2023年5月に取り扱いを中止し、62店分が一度に失われた。 申請日時点で厳密に数えると基準を下回る状態になり、2024年の更新は「次回までに基準を満たす店舗を把握する」という条件付きでの適合と判断された。
一方で、新規のフェアトレード専門店は増えている。JICA中部なごや地球ひろば内に2024年5月に開業した「EARTH GARDEN」、名古屋市西区の「フェアトレード珈琲院」、名東区の「FARMERS PASSION COFFEE」などである。
次回更新に向けて、FTNNと市は市内全戸に配布される「広報なごや」を使って、取扱店の情報を市民から集める手法を検討している。
基準6 自治体によるフェアトレードの支持と普及
名古屋市議会は2015年に「フェアトレードの理念を支持する決議」を可決した。市長も同年に支持を表明している。2024年11月の市長選挙で広沢一郎市長が就任した。
議員提案から生まれた取り組みが複数ある。
- 環境デーなごやでのフェアトレード区画拡大と「秋のフェアトレードタウンまつり」(2015年〜)
- 東京の環境展示会への「フェアトレードタウンなごや」出展(2016年〜)
- 「フェアトレードタウンなごや応援ロゴマーク」(2016年12月募集、2017年5月投票、同年9月発表、2018年2月運用開始)。2024年4月時点の申請件数は40件
- セミナー「フェアトレードタウンなごやのススメ」(2017年〜)
- 11月3日の市庁舎開放日に合わせたフェアトレード・コーヒー・ガーデン(2017年〜)
応援ロゴマークは、認定タウンのなかで名古屋市だけが運用している仕組みである。
教育現場への普及 — 2016年から5月のフェアトレード月間に市内全小学校の給食でフェアトレード産品が提供されている。2021年からは小学6年生の冬休み教材「冬の生活」にフェアトレードとフェアトレードタウンについて学ぶページが加わった。この冊子は名古屋市教育研究協議会が編集・発行しており、市環境局が直接働きかけて実現したものである。
公共調達 — 市庁舎の食堂でフェアトレードコーヒーが提供されている(2019年11月から本庁舎、2020年5月から西庁舎)。これは食堂運営事業者の選定仕様書がグリーン購入ガイドラインの準用を求めており、同ガイドラインの食堂の配慮事項に「食堂で使用する食材等は、地域の農林水産物の利用の促進に資するもの又はフェアトレードの認証を受けていること」と書かれているためである。2019年にはごみ収集職員の作業服と帽子にフェアトレード認証コットンが採用された。名古屋市はこれを指定都市初の事例としている。
市はフェアトレード関連の予算を毎年継続して確保している。 ※ 金額は記載しない(現地調査の聞き取りに基づくもので、市の公開資料では未確認のため。社内判断:2026年8月27日)
成果
| 指標 | 前回更新時 | 2024年更新時 |
|---|---|---|
| 商業施設数(基準5の数え方) | — | 238.5店 |
| 産品を利用・普及する地元組織 | 60カ所 | 64カ所 |
| 推進イベント・キャンペーン(3年計) | — | 42回 |
| うちメディア報道(3年計) | — | 16回 |
| 応援ロゴマークの申請件数 | — | 40件(2024年4月時点) |
| 市民の認知度(言葉も意味も知っている) | 35.9%(2021年度) | 40.6%(令和7年度) |
| 市民の認知度(自分のまちがタウンであること) | — | 2.3%(令和7年度) |
| フェアトレード商品の購入経験(ある) | — | 27.6%(令和7年度) |
認知度 — 名古屋市自身が測っている
名古屋市は、フェアトレードの認知度を市民アンケートで継続的に測っている数少ない自治体である。 環境基本計画の施策検討のために毎年実施している「環境対策に関する市民アンケート」に、フェアトレードの設問が3つ置かれている。
令和7年度調査(2025年5月15日〜6月2日実施、市内在住の満18歳以上2,000人を住民基本台帳から無作為抽出、郵送法、有効回収908人・回収率45.4%)の結果は次のとおりである。
問6 あなたは、フェアトレードを知っていましたか。
| 選択肢 | 割合 |
|---|---|
| 言葉も意味も知っていた | 40.6% |
| 言葉は聞いたことがあるが、意味は知らなかった | 22.6% |
| 知らなかった | 35.8% |
| 無回答 | 1.0% |
問7 あなたは、フェアトレード商品を買ったことがありますか。
| 選択肢 | 割合 |
|---|---|
| ある | 27.6% |
| ない | 22.8% |
| わからない | 48.2% |
| 無回答 | 1.3% |
問8 あなたは、名古屋市がフェアトレードタウンに認定されたことを知っていましたか。
| 選択肢 | 割合 |
|---|---|
| 知っていた | 2.3% |
| 知らなかった | 96.3% |
| 無回答 | 1.4% |
言葉も意味も知っている市民は4割。フェアトレード商品を買ったことがある市民は3割弱。そして、名古屋市がフェアトレードタウンだと知っている市民は2.3%である。
「言葉も意味も知っている」の割合には、経年の比較ができる。2023年10月策定の「生物多様性なごや戦略実行計画2030」は、同じ指標を35.9%(2021年度)と記載している。2021年度の35.9%から令和7年度の40.6%へ、4.7ポイント上がっている。
※ 出典: 名古屋市「令和7年度環境対策に関する市民アンケート報告書」8〜9頁(問6・問7・問8) ※ 名古屋市「生物多様性なごや戦略実行計画2030」69頁(35.9%) ※ いずれも公開資料。PDFの該当ページを直接確認済み(2026年8月27日)。 ※ 数値は原文のまま転記し、合算・丸めは行っていない。
課題
推進組織自身が次の更新までの目標として記した課題は次のとおりである。
- 会員数の拡大にとらわれず、会員向けイベントの充実によって会員の満足度を上げること。前回更新時にも同じ目標を掲げており、達成が難しい課題であること
- 企業への浸透について、細かな調査ができていないこと。理事が関わる形を作りたかったが、具体的な方法を確立するに至らなかったこと
- フェアトレードラベルを持たないがフェアトレード産品を販売する企業について、理念を共有し自己採点できる基準を設けること
- 取扱店舗の情報を、市と協力して市民から直接受け取る仕組みを作ること
現地調査では、都市の規模が大きすぎて調査が困難という状況が前回から変わっていないことも確認されている。
出典
- 名古屋市「フェアトレードとは」 https://www.city.nagoya.jp/kurashi/kankyou/1012424/1012446/1034786/1012449.html (取得日 2026-08-27)
- 名古屋市「市役所内におけるフェアトレード製品の利用」 https://www.city.nagoya.jp/kurashi/kankyou/1012424/1012446/1034786/1012453.html (取得日 2026-08-27)
- 名古屋市「生物多様性なごや戦略実行計画2030」 https://www.city.nagoya.jp/kankyo/page/0000167171.html (取得日 2026-08-27) 3-2. 名古屋市「令和7年度環境対策に関する市民アンケート」 https://www.city.nagoya.jp/shisei/keikaku/1008387/1008870/1008872/1008873.html 報告書PDF https://www.city.nagoya.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/873/r7siminnannketohoukokusho.pdf (取得日 2026-08-27)
- 名古屋市「フェアトレードタウンなごやのススメ vol.9」 https://www.city.nagoya.jp/kurashi/kankyou/1012424/1012446/1034786/1043436.html (取得日 2026-08-27)
- 名古屋市「名古屋市のフェアトレードに関する取り組みについて」(報道発表) https://www.city.nagoya.jp/houdou/3003942/3003943/3004470.html (取得日 2026-08-27)
- NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク「団体紹介」 https://www.ftnn.net/about/ (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「愛知県名古屋市」 https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/nagoya (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「フェアトレード全国フォーラム2025 in 名古屋」 https://fairtrade-forum-japan.org/archives/4426 (取得日 2026-08-27)
- 世界フェアトレード・デー・なごや https://fairtrade-nagoya.com/ (取得日 2026-08-27)
- 名古屋市会会議録・委員会記録検索システム https://ssp.kaigiroku.net/tenant/nagoya/SpTop.html (2015年3月10日の決議の確認先)
【FTFJ編集部による解説】他地域への示唆
1. 「フェアトレードが知られている」と「うちのまちがタウンだと知られている」は、別々に動く。 名古屋市は認知度を測っている数少ない自治体だ。そして測っているからこそ見えていることがある — 意味まで知っている市民は40.6%まで増えたのに、自分のまちがフェアトレードタウンだと知っている市民は2.3%にとどまる。 10年の啓発、全小学校の給食、市庁舎食堂での提供、小学6年生の冬休み教材。それでもこの2つは連動しない。 これは名古屋市の失敗ではない。認定という制度そのものが抱えている構造だと考えるべきだ。「フェアトレードを広める」ことと「このまちがフェアトレードタウンであると広める」ことは、別の仕事である。前者だけを続けても後者は上がらない。 だから、認定を目指す地域も、認定済みの地域も、この2つを分けて測るべきだ。測っていなければ、自分がどちらを達成しているのかすら分からない。名古屋市の設問は市の公開報告書にそのまま載っているので、他地域はこれを借りて使える。
2. 大手チェーンに依存した店舗数は、一夜で消える。 名古屋市は2023年、市内の大手コーヒーチェーンがフェアトレードコーヒーの取り扱いをやめたことで、62店分を一度に失った。 基準5の数字は、母数が大きい都市ほどチェーン店に依存しやすい。個人商店を1軒ずつ増やす作業は地味で時間がかかるが、そちらは一夜で消えない。店舗数を「積み上げ方」まで含めて見るべき理由がここにある。
3. 行政計画に書き込むと、担当者が替わっても残る。 名古屋市はフェアトレードを「生物多様性なごや戦略実行計画2030」のロードマップに位置づけた。2030年まで環境局が所管して普及を行うと、計画に書いてある。計画に書かれた事業は、担当者の熱意とは独立に続く。 そしてその計画を議論した懇談会には、推進組織の理事が委員として入っていた。これから認定を目指す地域にとって、「イベントに協力してもらう」より一段深い、行政との関わり方のモデルになる。
※ 文責: 内山大志