逗子市は2016年7月16日、日本で3番目のフェアトレードタウンに認定された。人口5万5千人、三浦半島の海沿いの市である。
この市には、他のフェアトレードタウンにない道具がひとつある。フェアトレードの認知度が、市の総合計画の重要業績評価指標(KPI)として書き込まれていることだ。「フェアトレードの認知度が50%を超えている」——それが2029年度に向けた目標として、公開された計画文書に明記されている。
そして市は、その数字を毎年測り、毎年公表している。2019年から7年分の目盛りがある。
その目盛りが示しているのは、順調な右肩上がりではない。39.4%(2021年度)から45.0%(2023年度)まで上がったあと、44.6%、44.5%と、3年にわたって横ばい以下で推移している。
これは逗子市の失敗ではない。測っているからこそ見えている数字である。測っていなければ、この記事は書けなかった。
※ 出典: 逗子市総合計画(基本構想2015-2038/中期実施計画2023-2029)/逗子市総合計画進行管理表(2026年6月)/逗子市「逗子のまちづくりに関するアンケート調査」令和7年度集計結果
背景
逗子市の運動は2011年に始まった。「逗子フェアトレードタウン勉強会」という名前だった。
5年後の2016年、市議会が3月22日にフェアトレードを支持する決議を可決し、4月15日に平井竜一市長(当時)がフェアトレードタウン宣言を行った。宣言文は現在も逗子市公式サイトに全文が掲載されている。そして7月16日、逗子文化プラザ さざなみホールで認定式が開かれた。日本で3番目、熊本市・名古屋市に続くフェアトレードタウンである。
認定の前年、2015年3月31日に勉強会は「逗子フェアトレードタウンの会」(FTTZ)へと改組されている。認定を受ける主体としての推進組織を、認定の1年余り前に整えていた形になる。
※ 出典: 逗子市「フェアトレードタウンの取組み」(2026年2月10日更新)/日本フェアトレード・フォーラム 神奈川県逗子市ページ
主体
推進組織は逗子フェアトレードタウンの会(FTTZ)である。2015年3月31日設立、前身の「逗子フェアトレードタウン勉強会」は2011年に発足した。
代表は共同代表制で、磯野昌子氏と森拓也氏の2名が務めている。
このうち森拓也氏は逗子市職員である。申請書にも現地調査報告書にも明記されており、現地調査では市役所内外の調整と各訪問先への案内を担っている。市の職員が推進組織の共同代表に就いているという構図は、認定タウンのなかでも珍しい。現地調査報告書は、これを「組織体制の更新」と「逗子市(行政機関)との連携も深まっている」ものとして評価している。
会員は39名(2025年4月1日現在、申請書)。前回更新時の2022年から変わっていない。理事は14名で、前回の21名から減っている。理事の顔ぶれは、大学教員、NPO・NGOの役職者、映画館館長、翻訳者、会社経営者、市職員など幅広い。
※ 推進組織の法人格は任意団体である。申請書には記載がないが、内山代表理事の確認により確定した(2026年8月30日 確定)。 ※ 会員数に食い違いがある。申請書は39名、逗子市の市民活動紹介サイト「ナニスル」は90名。時点も基準も異なる可能性があるため、記事では申請書の値を採り、食い違いを内部メモに残した。申請書に載っている数字を引用する限りにおいてはこの値のままとする扱いで確定(2026年8月30日 確定)。 ※ FTFJ公式サイトの逗子市ページは、共同代表を「長坂寿久」と記載している。同ページの本文は、その時点で推進組織側から提供された文章をそのまま掲載しているものであり、その記述の文責は推進組織側にある(2026年8月30日 確定)。現在の共同代表は、本文に記したとおり磯野昌子氏・森拓也氏の2名である。 ※ 出典: 逗子市 市民活動紹介「ナニスル」/FTFJ「逗子市をフェアトレードタウンとして3度目の更新認定」(2025年11月28日)
取り組み
基準1 推進組織の設立と支持層の拡大
FTTZは理事会・総会に加えて運営委員会を定期的に開催している。事務局は会計と会員管理、会場確保を担い、その下に広報/市民協働事業/商品開発/自主事業の4系統が置かれている。
会員の新規勧誘は、現在は積極的には行われていない。申請書と現地調査の双方で確認されている。そのかわり、後述する高校生との関わりのように、既存の会員以外の主体との関係を深める取り組みに力が向けられている。会員数が3年間39名で動かないのは、この方針の帰結でもある。
基準2 運動の展開と市民の啓発
2022年度から2024年度の3年間で、イベント・キャンペーンは26回、うちメディア報道は12回。前回更新時(32回・15回)を下回っている。
現地調査報告書は、この減少を数だけで評価していない。減った一方で、ユース向けの新規プログラムが2つ始まっているためである。
- フェアトレード・ユース・リーダーシップ開発プログラム CHANGE 2023(2023年8月26〜27日)
- フェアトレードユーストレーニング CHANGE 2024(2024年8月24〜25日)
2日間の集中プログラムで、FTTZメンバーによるフェアトレード講座から始まり、ワークショップとフィールドワークで構成されている。プログラム設計にはNPO法人Wake Up Japanが加わった。このプログラムには後述の逗子開成中学高等学校の生徒が参加しており、学んだ生徒が実際の活動に回るという循環が現地調査で確認されている。
定例の事業は3つある。
- 逗子フェアトレードタウン連続講座(年4回)
- 逗子フェアトレードタウンフォーラム(毎年5月)
- フェアトレード×ローカル ランチキャンペーン(毎年5月のフェアトレード月間)
連続講座の講師には、フェアトレードシティくまもと推進委員会代表、フェアトレード・ラベル・ジャパン、シャプラニール、シサム工房、ゼンショーホールディングス フェアトレード部など、認定・認証・流通・小売のそれぞれの当事者が招かれている。2025年度も全4回が開催された(第4回はウクライナからの避難者を講師に迎えた「Talk for Peace!」)。
2026年9月19日には、認定10周年を記念する「フェアトレードタウン・フォーラム2026 in 逗子」が予定されている。主催は逗子市と逗子フェアトレードタウンの会。企画協力に鎌倉エシカルラボとWake Up Japanが入る。
※ 出典: 逗子市「国際理解講座・イベント」ページ(2025年度・2026年度)/逗子葉山経済新聞(2025年9月17日)/ユネスコスクール公式サイト(2026年8月7日掲載)
基準3 地域社会への浸透
組織内でフェアトレード産品を利用している地元組織は、認定時の9カ所から20カ所に増えた。
主に使われているのはZUSHI COFFEEである。現地調査で市役所を訪問した際にも提供された。
ZUSHI COFFEEには前史がある。当初は「逗子珈琲」として販売されており、東ティモールから仕入れた豆を市内の焙煎業者で焙煎していたが、フェアトレード認証を取得したものではなかった。2021年にリニューアルし、フェアトレード認証を受けた「ZUSHI COFFEE」になった。2024年7月には「ZUSHI FAIR TRADE COFFEE」としてオンライン販売も始まっている(ニカラグア産、逗子フェアトレードタウンの会との共同開発)。
利用の広がり方に、この市らしい経路がある。逗子ロータリークラブがZUSHI COFFEEを使い始めたきっかけは、同クラブが開いた「湘南青少年環境会議 in 逗子」だった。そこに逗子開成中高の生徒が参加し、フェアトレードの取り組みを発表したことが起点になっている。生徒の発表が、大人の団体の調達を動かした形である。
このほか、飲食店「逗子 魚勝」が提供する料理にフェアトレードの塩を使っていることが現地調査で確認されている。
※ 出典: 逗子・葉山WEB「ZUSHI FAIR TRADE COFFEE 販売開始」(2024年7月21日) ※ 「逗子フェアトレードカンパニー」という名称の団体・法人は、公開情報では確認できなかった。申請関係資料には事業譲渡に伴い名称のみ継続する旨の記載がある。記事には書かない扱いで確定(2026年8月30日 確定)。
基準4 地域活性化への貢献
申請書は3つの取り組みを挙げている。
(1) フェアトレードランチキャンペーン
5月のフェアトレード月間に、フェアトレード食材と神奈川県産の地元食材をそれぞれ1品以上使ったメニューを市内の飲食店に提供してもらうもの。キャッチコピーは「食べて応援!フェアトレード×ローカル」。
参加店舗数は2022年21店 → 2023年27店 → 2024年24店。
参加を左右しているのは、市民協働課や商工会の呼びかけよりも、FTTZメンバーが個別の店に直接声をかけることだと現地調査で確認されている。店側のメリットは広報である。市の広報誌「広報ずし」への掲載、ミニのぼり、参加店MAP、FTTZのSNS。
ただし、申請書は成果を率直に書いている。2024年度はFacebook投稿のリーチ数が前年の4,942から2,577へほぼ半減し、Instagramの反応も大幅に減った。申請書自身が「非常に苦しい結果となった」と記している。
2026年のキャンペーンは期間を5月1日〜7月31日の3か月に延長し、市内約30店舗が参加している。
(2) ZUSHI COFFEEと若者の地域参加
逗子開成中学・高等学校の「土曜講座 逗子活性化プロジェクト」が中心にある。中1から高3までが学年を超えてテーマを選ぶ、大学のサークルに近い枠組みで、参加は任意。このプロジェクトに30〜40名の生徒が参加している。
立ち上げたのはFTTZメンバーでもある同校の村山哲也教諭だった。村山教諭の定年退職に伴い、現在はインターアクト部顧問の丸山教諭に引き継がれている。担当教諭が交代しても取り組みは続いた。
生徒たちは学校祭、保護者説明会、市内イベントでZUSHI COFFEEを販売し、2024年には自分たちでフェアトレードコーヒーの豆を選定したオリジナルコーヒーを開発・販売した。原産地であるタンザニアについて調べ、学校祭で発表もしている。
逗子開成中学校・高等学校は、2023年11月1日にFTFJのフェアトレードスクールに認定されている。活動の4つの柱は「学ぶ・伝える・売る・広げる」。利益は児童労働防止に取り組むNGO「ACE」に寄付されている。
(3) 市内小中学校への普及
市立中学校3校(逗子中学校、久木中学校、沼間中学校)で、5月のフェアトレード月間に合わせてフェアトレードのごまを使った給食が継続的に提供されている。あわせて市民協働課とFTTZが作成した解説リーフレットが生徒に配布される。
きっかけは市民協働課から教育委員会への働きかけだったが、現在は教育委員会自身が継続的な取り組みとして位置づけている。2025年6月の市議会でも、教育長が「世界フェアトレード月間に合わせ、フェアトレードのゴマを使った食料の提供」に言及している。
※ 出典: 逗子市「フェアトレード給食」ページ/逗子市「フェアトレードタウン逗子 イベント情報(2026年度)」/FTFJ フェアトレードスクール 逗子開成中学校・高等学校ページ/逗子市議会 令和7年6月定例会(第2回)6月19日-03号 ※ 生徒が2024年に開発したコーヒーの名称は、公開情報では「逗子珈琲」と表記されている。内部資料の表記とは異なるため、記事では名称を書かず「オリジナルコーヒー」と記載している。この扱いで確定(2026年8月30日 確定)。
基準5 地域の店等によるフェアトレード産品の幅広い提供
人口55,136人(2025年4月1日現在)に対して必要な店舗数は6店以上。申請時点の実績は次のとおりである。
| 2品目以上(X) | 1品目のみ(Y) | |
|---|---|---|
| 小売店 | 7店 | 4店 |
| 飲食店 | 1店 | 11店 |
| 小売店兼飲食店 | 2店 | 3店 |
| その他商業施設 | 1店 | 7店 |
| 合計 | 11店 | 25店 |
基準の数え方(X+Y×0.5)で23.5店。必要数6店を大きく上回っている。
内訳の構成に、この市の特徴が出ている。申請書に挙げられた36店の一覧を見ると、広域展開する事業者はオーケー、カルディコーヒーファーム、スターバックス、生協(ユーコープ)にとどまり、残りは地元スーパー「スズキヤ」の2店を含め、個人商店と地元事業者が占めている。映画館(CINEMA AMIGO)、コミュニティFM(湘南ビーチFM)、市立体育館、観光協会といった非小売の施設も名を連ねている。
名古屋市が2023年に大手コーヒーチェーンの取り扱い中止で62店分を一度に失ったのとは、数字の性質が違う。逗子市の23.5店は、1軒ずつ積み上げられたぶん、1件の経営判断では崩れない。
推進店は「陰陽洞」(逗子市逗子6-2-5、1977年創業)。自然食料品店として定着している。NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会の商品を扱ったことがフェアトレード産品を扱う起点だった。現地調査では、ランチキャンペーン開始時に他店への相談・卸を担っていたこと、現在は独自にチョコレートの小分け販売や、フェアトレード認証を取得していない企業に対する認証取得の働きかけ、地元TSUTAYAへの卸まで行っていることが確認されている。取扱品目は9品目で、市内で最も多い。
地元スーパー「スズキヤ」での聞き取りでは、ZUSHI COFFEEのドリップバッグが年間およそ3,000個売れている。逗子市には代表的な土産物がなく、地元住民が手土産として買っていくケースが多いという。
※ 出典: 逗子市「市内フェアトレード商品取扱店舗MAP」(32店舗掲載。ただし注記は2021年8月5日現在)/陰陽洞 公式サイト
基準6 自治体によるフェアトレードの支持と普及
逗子市の予算は、公開資料で金額まで追える。熊本市・名古屋市の事例では市の公開資料で裏が取れず金額を書けなかったが、逗子市は予算参考資料に事業名と金額が明記されている。
経過は次のとおりである。
| 年度 | 市からFTTZへの支援 | 形式 |
|---|---|---|
| 2016〜2017年度 | 30万円/年 | 委託費(市が仕様書を定める)/協働事業提案制度 |
| 2018〜2020年度 | ゼロ | 財政調整基金の不足による緊縮財政措置 |
| 2021年度〜 | 30万円/年 | 負担金(FTTZが用途を決められる)/一般経費に変更 |
この3年間の空白と、その後の復活の仕方が、逗子市の事例で最も参照価値の高い部分である。
2018年度から2020年度にかけて、市の財政調整基金が不足したことによる緊縮財政措置で、逗子市からFTTZへの財政的支援はなくなった。この間、市は資金以外の支援——広報誌への掲載など——を続けた。
2021年度に緊縮財政措置が明けたとき、市は元に戻さなかった。2つの制度変更を行っている。
- 政策的経費から一般経費へ。政策的経費はその時点の政策として必要とされる予算、一般経費は年度に関わらず常に必要とされる予算である。後者に移すことで、政策の優先順位の変動に左右されにくくなる。
- 委託費から負担金へ。委託費は市が仕様書を定め、そのとおりに事業を行う形。負担金はFTTZが用途を決められる。
この負担金(正式名称「フェアトレード啓発事業負担金」)を原資として、FTTZは連続講座、ユーストレーニング、ランチキャンペーン、フォーラムの4事業を実施している。
直近3年間の予算額は市の予算参考資料に記載がある。
| 年度 | 国際交流推進事業 予算額 | 内容(原文) |
|---|---|---|
| 令和6年度(2024) | 387千円 | フェアトレード啓発事業負担金 300千円(ほか市制70周年記念フェアトレード懸垂幕の経費など) |
| 令和7年度(2025) | 318千円 | 「フェアトレード啓発事業負担金 300千円(フェアトレードタウン認定更新料33千円含む)」 |
| 令和8年度(2026) | 317千円 | 「フェアトレード啓発事業負担金 300千円」 |
2024年度の387千円は、市長が2024年2月の全員協議会と3月の本会議で予算大綱・施政方針として読み上げており、議会会議録で確認できる。
国際交流推進事業は、フェアトレード啓発事業負担金及び市制70周年記念フェアトレード懸垂幕の経費などとしまして38万7,000円を計上いたしました。 (令和6年3月定例会 第1回 2月20日-01号/桐ケ谷覚市長)
そのほかの市の取り組み
- 5月のフェアトレード月間に市庁舎へ懸垂幕を掲揚(2024年度は市制70周年記念、2025年度・2026年度も継続)
- 市立図書館でのフェアトレード関連図書の特別展示
- 市役所1階のともしびショップ「青い鳥」でフェアトレードコーヒーを販売
- 市内フェアトレード商品取扱店舗MAPの作成・公開
- 教育委員会と連携した中学校給食(前掲)
市長へのヒアリング
現地調査では桐ケ谷覚市長へのヒアリングが行われている。桐ケ谷市長は、逗子市がフェアトレードタウンに認定された2016年時点で逗子市商工会長を務めていた。認定当時から関与していた人物が、現在は市長として推進側にいる形になる。市長は特に高校生など若い世代の関与に関心を示している。
2025年3月に鎌倉市が国内7番目のフェアトレードタウンに認定されたことについても、市長は言及している。三浦半島の鎌倉・逗子・葉山・横須賀・三浦には首長懇談会があり、交流が強い。鎌倉市の推進団体「鎌倉エシカルラボ」とのコミュニケーションも取られている。
議会
逗子市議会の会議録検索システムで「フェアトレード」を検索すると、全期間で84件がヒットする。申請書が対象とした2022年4月〜2025年3月の期間では5件(2022年1件、2023年2件、2024年2件、2025年0件)。その後、2025年には3件の発言がある(9月定例会、6月定例会、3月予算特別委員会)。一方、2026年の会議録では0件である。
※ 出典: 逗子市 令和6年度・令和7年度・令和8年度 予算参考資料/逗子市議会 会議録検索システム/逗子市「フェアトレードタウンの取組み」ページ ※ 予算額は市の公開資料に記載された金額をそのまま転記した。事業名は「国際交流推進事業」であり、フェアトレード以外の経費を含む。 ※ 令和7年度・令和8年度の施政方針および予算提案説明には、フェアトレードへの言及がない。
成果
| 指標 | 認定時 | 前回更新時(2022年) | 2025年更新時 |
|---|---|---|---|
| 商業施設数(基準5の数え方) | — | — | 23.5店(必要6店) |
| 産品を利用・普及する地元組織 | 9カ所 | — | 20カ所 |
| 推進イベント・キャンペーン(3年計) | — | 32回 | 26回 |
| うちメディア報道(3年計) | — | 15回 | 12回 |
| ランチキャンペーン参加店 | — | 21店(2022年) | 24店(2024年) |
| 市からFTTZへの財政支援 | 30万円/年(委託費) | 30万円/年(負担金) | 30万円/年(負担金) |
| 市民の認知度(総合計画KPIの値) | — | 39.4%(2022年3月) | 44.50%(2025年度) |
| 市民の認知度(自分のまちがタウンであること) | — | 32.2%(2022年調査) | 32.5%(2025年調査) |
認知度 — 逗子市は7年分の目盛りを持っている
逗子市は、フェアトレードの認知度を毎年測り、毎年公表している数少ない自治体である。
市が毎年実施している「逗子のまちづくりに関するアンケート調査」に、2019年12月調査から次の3つの設問が加えられた。住民基本台帳に基づき、市内在住の満18歳以上から1,500人を無作為抽出して行う調査である。設問を追加したのは市であり、FTTZはその結果の共有と分析を担っている。
- あなたは、「フェアトレード」という言葉を知っていますか。
- あなたは、フェアトレード商品を購入したことはありますか。
- あなたは、逗子市が「フェアトレードタウン」に認定されていることを知っていますか。
設問2と設問3は、設問1で「知らない」以外を選んだ人だけに聞いている。この設計は、後で名古屋市と比べるときに重要になる。
最新調査(令和7年度)の結果
令和7年度調査:2025年11月4日〜11月21日実施/有効発送1,497/有効回収702(郵送441・ウェブ261)/回収率46.9%
設問1 「フェアトレード」という言葉を知っていますか(n=702)
| 選択肢 | 割合 |
|---|---|
| 見聞きしたことがあり、内容もよく知っている | 13.7% |
| 見聞きしたことがあり、内容も多少は知っている | 30.8% |
| 言葉は見聞きしたことがあるが、内容はよく知らない | 22.6% |
| 知らない | 32.2%(最多) |
| 無回答 | 0.7% |
設問2 フェアトレード商品を購入したことはありますか(n=471)
| 選択肢 | 割合 |
|---|---|
| 市内で購入したことがある | 26.3% |
| 市外で購入したことがある | 25.3% |
| 購入したことがない | 27.2%(最多) |
| わからない | 20.0% |
| 無回答 | 1.3% |
設問3 逗子市が「フェアトレードタウン」に認定されていることを知っていますか(n=471)
| 選択肢 | 割合 |
|---|---|
| はい | 32.5% |
| いいえ | 65.8% |
| 無回答 | 1.7% |
設問3の7年間の推移
調査を実施した年(例年12月、令和7年度のみ11月)で統一して並べる。
| 調査年 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| はい(知っている) | 28.3% | 28.1% | 35.4% | 32.2% | 33.9% | 34.5% | 32.5% |
| いいえ | 70.9% | 66.9% | 63.8% | 66.5% | 64.3% | 63.2% | 65.8% |
2019年の28.3%から2021年に35.4%まで上がり、以降は32〜34%の帯を出ていない。
※ 出典: 逗子市「逗子のまちづくりに関するアンケート調査」各年度の集計結果(2019年12月調査〜2025年11月調査)。年度ごとの集計結果PDFが同調査のページ(出典5)に掲載されている。
総合計画のKPI — 目標50%超、実績44.5%
逗子市は、この調査結果を市の総合計画の重要業績評価指標(KPI)として使っている。
逗子市総合計画 基本構想2015-2038/中期実施計画2023-2029 の「新しい地域の姿を示す市民主権のまち」→「世界とつながり、平和に貢献するまち」→「国際交流・国際理解の推進」に、次のKPIが置かれている。
◆ 重要業績評価指標(KPI) 【2029年度(令和11年度)】 現状(2022.3) フェアトレードの認知度が 50%を超えている。 39.4% 補足説明:「逗子のまちづくりに関する市民意識調査」等の結果に基づく。
同じ施策の下に「フェアトレードタウンの取り組みの支援」が具体的施策として位置づけられ、担当課は市民協働課、予算事業名は国際交流推進事業とされている。
進行管理表(2026年6月29日 逗子市総合計画審議会 資料)に記載された実績値は次のとおりである。
| 現状 2022.3 | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 | 目標 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 実績 | 39.4% | 45.0% | 44.6% | 44.50% | 50%超(2029年度) |
| 想定 | — | 41% | 42% | 44% | — |
想定目標は2026年度46%、2027年度48%、2028年度50%、2029年度50%超と続く。
市の進捗状況評価は「A:順調である」。補足説明は次のとおりである。
逗子フェアトレードタウンの会と共催し、イベント等を協働で行っている。認知度については2025年度は0.1ポイント減少しているが、商品を購入したことがあるについては2025年度は4.1ポイント増加している。年次計画上は概ね順調であると考えている。
2025年度の実績額は316,097円と記載されている。
数字の読み方は割れうる。年次計画の想定(2025年度44%)は上回っている。一方、3年間の推移は45.0%→44.6%→44.5%で、2026年度の想定46%に対しては1.5ポイント不足する。上げ幅が止まっていることと、計画どおりであることは、両立する。
※ 出典: 逗子市総合計画(基本構想2015-2038/中期実施計画2023-2029)/令和8年度第1回逗子市総合計画審議会 資料10-1・10-2「逗子市総合計画進行管理表」(2026年6月29日)/逗子市「逗子のまちづくりに関するアンケート調査」令和5〜7年度集計結果 ※ すべて公開資料。PDFの該当ページを直接確認済み(2026年8月27日)。 ※ KPI「フェアトレードの認知度」がアンケートのどの選択肢の合計として算定されているかは、公開文書に明記されていない。本記事はKPIの値を進行管理表の記載どおりに転記し、アンケートの選択肢別の数値とは別々に示している。両者を合算・変換していない。算定方式について市への照会は行わず、公開情報に記載がある範囲を出典を明記して記載する扱いで確定(2026年8月30日 確定)。 ※ 数値は原文のまま転記し、合算・丸めは行っていない。
名古屋市との比較 — 同じ問いを、違う分母で聞いている
FTRCの2本目で扱った名古屋市も、フェアトレードの認知度を市民アンケートで測っている。両市を並べたくなるが、そのまま並べてはいけない。
| 名古屋市(令和7年度) | 逗子市(令和7年度) | |
|---|---|---|
| 人口 | 約232万人 | 約5.5万人 |
| 調査 | 環境対策に関する市民アンケート | 逗子のまちづくりに関するアンケート調査 |
| 有効回収 | 908人(回収率45.4%) | 702人(回収率46.9%) |
| フェアトレードを知っている | 40.6%(言葉も意味も知っていた) | 44.5%(総合計画KPIの値) |
| タウン認定を知っている | 2.3% | 32.5% |
| その設問を聞いた相手 | 全回答者 | フェアトレードを「知らない」以外を選んだ人(471/702) |
分母が違う。名古屋市は全回答者に「名古屋市がフェアトレードタウンに認定されたことを知っていましたか」と聞いている。逗子市は、フェアトレードを知っている人にだけ「逗子市がフェアトレードタウンに認定されていることを知っていますか」と聞いている。
同じ土俵に乗せるには、逗子市の値を全回答者ベースに換算する必要がある。
- 設問3の対象者は471人、全回答者は702人 → 67.1%
- 32.5% × 67.1% = 21.8%
全回答者に占める割合でそろえると、名古屋市2.3%に対して逗子市は約21.8%。およそ9倍の開きがある。
なお、この試算は「フェアトレードを知らない人は、自分のまちがフェアトレードタウンであることも知らない」という前提を置いている。逗子市は該当者に質問していないため、その前提の当否は検証できない。
※ 上記21.8%は本記事による試算である。逗子市の公開資料に記載された数値ではない。算出根拠を明示したうえで示している。 ※ 名古屋市の数値は「令和7年度環境対策に関する市民アンケート報告書」問6・問8による。 ※ 両市の「フェアトレードを知っている」の定義も異なる。名古屋市の40.6%は「言葉も意味も知っていた」、逗子市の44.5%は総合計画KPIの値である。近い値だが、同一の指標ではない。
課題
FTTZが今後3年間の重点課題として挙げているのは次の6点である。前回(2022年)とほぼ同じ項目が並んでいる。
- 多様な世代間交流・対話をめざす——若者へのアプローチを心がける
- 商店(飲食店等)とのより丁寧な関係性の構築へ——ランチキャンペーンの継続と深化
- 広報ツールの抜本的な改善に取り組む——広報・発信の強化
- 運営・後継人材の獲得
- 行政(市役所)や他団体との協働・つながりについて
- 周辺地域との協働への視野を
3と4は前回も掲げられていた。広報については、2022年の申請書が「広報ツールの全般的な改善」としていたものが、今回は「抜本的な改善」に強まっている。前掲のとおり、2024年度のSNSの反応は前年の半分近くまで落ちている。
現地調査報告書は、これらの目標に対して「着実に進めていくことができる状況」と評価している。
加えて、現地調査は次の2点を記録している。
- 市制70周年記念の懸垂幕は破損等があり、今後の活用は未定。
- 桐ケ谷市長は、ZUSHI COFFEEの焙煎・加工場所が逗子市内にないためふるさと納税の返礼品にできないことに不満を持っており、FTFJから総務省に対して要件緩和を求めるよう働きかけることを希望している。
出典
- 逗子市「フェアトレードタウンの取組み」 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shiminkatsudo/kokusaiheiwa/1007808/1005088.html (取得日 2026-08-27)
- 逗子市「市内フェアトレード商品取扱店舗MAP」 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shiminkatsudo/kokusaiheiwa/1007808/1005089.html (取得日 2026-08-27)
- 逗子市「フェアトレード給食」 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shiminkatsudo/kokusaiheiwa/1007808/1005090.html (取得日 2026-08-27)
- 逗子市「フェアトレードタウン逗子 イベント情報(2026年度)」 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shiminkatsudo/kokusaiheiwa/1007808/1005091/1014213/1014216.html (取得日 2026-08-27)
- 逗子市「逗子のまちづくりに関するアンケート調査」 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shiminkatsudo/machizukuri/1002453/1002454.html 令和7年度集計結果PDF https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/454/r7result.pdf 令和6年度集計結果PDF https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/454/r6result.pdf (取得日 2026-08-27)
- 逗子市総合計画(基本構想2015-2038/中期実施計画2023-2029/第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略) https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shisei/keikaku/1005539/1005540.html 本文PDF https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/005/540/soukeizenbuv2.pdf (KPIはノンブル「- 202 -」)(取得日 2026-08-27)
- 令和8年度第1回逗子市総合計画審議会(2026年6月29日)資料 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shisei/shingikai/1005800/1005802/1014410/1014411.html 進行管理表PDF https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/014/411/14_5setushinnkou.pdf (取得日 2026-08-27)
- 逗子市 令和8年度予算参考資料 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/816/r8sankou2.pdf (取得日 2026-08-27)
- 逗子市 令和7年度予算参考資料 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/814/r7yosansankou.pdf (取得日 2026-08-27)
- 逗子市 人口統計 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shisei/tokei/1007882.html (取得日 2026-08-27)
- 逗子市議会 会議録検索システム https://ssp.kaigiroku.net/tenant/zushi/pg/ (取得日 2026-08-27)
- 逗子フェアトレードタウンの会 公式サイト https://fttzushievent.wixsite.com/fttzushi (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「神奈川県逗子市」 https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/zushi (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「逗子市をフェアトレードタウンとして3度目の更新認定」 https://fairtrade-forum-japan.org/archives/4586 (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「逗子開成中学校・高等学校 逗子活性化プロジェクト」 https://fairtrade-forum-japan.org/fairtradeuniversity/fairtradeschool-detail/zushikaisei-junior-senior-high-school (取得日 2026-08-27)
- 逗子・葉山WEB「ZUSHI FAIR TRADE COFFEE 販売開始」 https://zushi-hayama.jp/news/n_20240721/ (取得日 2026-08-27)
- 陰陽洞 公式サイト https://in-yo-do.com/ (取得日 2026-08-27)
- 逗子葉山経済新聞「逗子でフェアトレード連続講座」 https://zushi-hayama.keizai.biz/headline/1005/ (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市 記者発表「フェアトレードタウンに認定されました」(2025年3月14日) https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kisya/data/2025/20250314.html (取得日 2026-08-27)
- 名古屋市「令和7年度環境対策に関する市民アンケート報告書」 https://www.city.nagoya.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/873/r7siminnannketohoukokusho.pdf (比較のため参照。取得日 2026-08-27)
【FTFJ編集部による解説】他地域への示唆
1. 認知度を行政計画のKPIに書き込むと、都合の悪い数字も公開される。それは損ではない。
逗子市は「フェアトレードの認知度が50%を超えている」というKPIを総合計画に書いた。その結果、毎年の実績値が審議会資料として公開される。45.0%→44.6%→44.5%という横ばいも、公開されている。
これは運動にとって不利に見える。だが、7年分の目盛りを持っている地域は、他にほとんどない。目盛りがなければ、施策が効いているのかどうかを誰も判断できない。効いていないと分かることは、効いているかどうか分からないことより、はるかに前に進んでいる。
そして、KPIに書かれた指標は議会の質問対象になる。2023年3月の全員協議会では議員が「39.4%を50%にアップさせるためには、市民頼みではなくて、行政として何らかのてこ入れをするということでよろしいのでしょうか」と問うている。計画に書かれた数字は、行政に説明責任を発生させる。
これから認定を目指す地域への含意は明確だ。市の既存の市民意識調査に設問を3つ入れてもらうこと。逗子市の3設問は市の公開報告書にそのまま載っているので、他地域はこれを借りて使える。設問を入れるのは無料である。
2. 「予算をつけてもらう」より、「予算の種類を変える」ほうが強い。
逗子市は2018年度から3年間、緊縮財政でFTTZへの財政支援をゼロにした。ここで運動が止まってもおかしくなかった。
止まらなかったのは、市が資金以外の支援(広報誌への掲載)を続けたこと、そしてFTTZ側に自立した事業があったことによる。
だが本当に効いたのは復活のさせ方である。2021年度に市は2つの制度変更を行った。政策的経費から一般経費へ。委託費から負担金へ。
前者は、その時々の政策の優先順位に左右されにくい予算区分に移すこと。後者は、市が仕様書を決める形から、推進組織が用途を決められる形に変えることである。同じ30万円でも、この2つの変更を経た30万円は性質が違う。
熊本市も名古屋市も、市の予算は継続している。だが「どの予算区分で、どの支出形式か」を確認している地域は多くないだろう。次に財政が厳しくなったとき、生き残るのは金額ではなく区分である。
3. 規模が小さいほうが届く。ただし届いた先で止まる。
同じ年の調査で、自分のまちがフェアトレードタウンだと知っている市民は、名古屋市2.3%、逗子市(全回答者換算)約21.8%。9倍の差がある。人口は逗子市が名古屋市の42分の1である。
小さい市のほうがタウン認定は届く。懸垂幕は1本で市役所前に立ち、給食は3中学校で足り、ランチキャンペーンは24店で市内を覆う。名古屋市が全小学校の給食と市庁舎食堂と小6教材まで動員して2.3%だったことを思えば、規模の効果は決定的に見える。
だが逗子市の数字も、2021年以降は動いていない。32〜34%の帯から出ていない。届く範囲に届き終えたあと、次の層にどう届かせるかという問題は、市の規模を問わず同じ形で現れる。
規模の小ささは初速を稼ぐ。持続は稼がない。
4. 推進組織の共同代表が自治体職員であることは、記録に残す価値がある。
逗子市の推進組織は、共同代表2名のうち1名が逗子市職員である。現地調査でも市役所内外の調整を担い、訪問先への案内を兼ねて同行している。認定タウンのなかで、これは珍しい形である。
FTRCとしては、この構図を評価せず、事実として記録する。推進力になるという見方と、市民運動と行政の距離が近すぎるという見方の双方がありうる。判断材料は、この事例が今後どう推移するかである。他地域が同じ形を採るかどうかを考えるとき、逗子市の実績が参照点になる。
※ 文責: 内山大志