06フェアトレードタウン

三重県いなべ市 — 正会員4名の推進組織と、市の総合計画への位置づけ

基本データ

自治体
三重県いなべ市
所在
三重県
人口(認定時)
45,625人(2019年2月現在・審査報告書)
人口(現在)
44,349人(2026年8月1日現在/日本人41,613人+外国人2,736人)
認定日
2019年9月23日
更新認定
2022年11月15日
認定順
タウン 6 件目
推進組織
いなべフェアトレードタウン
担当部署
いなべ市 農林商工部 商工観光課
計画への位置づけ
KPI

いなべ市は2019年、日本で6番目のフェアトレードタウンに認定された。三重県北端、人口約4万4千人。認定された8市のなかで、最も人口が小さい。

人口が小さいと、基準5(フェアトレード産品を提供する店舗数)は楽になる。必要数は人口1万人あたり1店なので、いなべ市に必要なのは5店である。名古屋市の233店、札幌市の196店とは桁が違う。

認定時、いなべ市の実績は6.5店だった。必要数をわずかに上回るだけである。

3年後、31店になっていた。約5倍である。

ただし、この数字はそのまま取扱いの実数の増加を表すものではない。基準5の店舗数は、GMS・スーパー等でフェアトレード産品が販売されている場合も0.5店ないし1店として数えている。したがって店舗数の増加には、取扱いを把握・計上できる体制が整ったことによる面も含まれる(出所:内山代表理事の説明/2026年8月30日)。数え方については「基準5」の節に記す。

そして、それを実行したのは正会員4名の推進組織だった。この4名は認定時から現在まで変わっていない。

この記事の中心は、その4名が使った方法である。手順は2022年の現地調査報告書に、驚くほど具体的に記録されている。人口4万人の市で使えた方法は、たいていの地域で使える。

背景

いなべ市の運動は、2017年4月に始まった。

きっかけは、1回の講演会である。FTFJのいなべ市ページによれば、2019年に大府市出身の原田さとみ氏が市内で行った講演会——ではなく、それ以前の動きが起点となっている。推進組織「いなべフェアトレードタウン」の前身「いなべ市フェアトレード推進委員会」は2018年5月1日の総会により設立された。

認定までの経過は次のとおりである。

時期 できごと
2017年4月 認定に向けた動きが始まる
2018年5月1日 総会により推進組織を設立
2018年12月21日 いなべ市議会が「フェアトレードの取組に関する決議」を可決
2019年2月2日 日沖靖市長が「いなべ市フェアトレード宣言」
2019年6月6日 FTFJ第1回認定委員会(認定委員8名出席)
2019年6月23〜24日 現地調査(坂田裕輔団長・石井聡団員)
2019年7月21日 認定委員会が理事会へ審査報告
2019年9月23日 フェアトレードタウン認定(日本で6番目)/認定記念式典

推進組織の設立から認定まで1年5か月。札幌市(1年3か月)に次ぐ速さである。

※ 出典: いなべ市「いなべ市議会によるフェアトレードの取組に関する決議」(平成30年12月21日)/同「いなべ市フェアトレード宣言」(平成31年2月2日)/FTFJ 三重県いなべ市ページ

主体

推進組織はいなべフェアトレードタウンである。

役員構成は次のとおり(2025年時点)。

役職 氏名
会長 羽場典子
副会長 山本たか代
会計 中根緑
監査 岳野直美

会員数の推移が、この組織の性格を表している。

1回目の更新(2022年) 2回目の更新(2025年)
正会員 4名 4名
賛助会員 64名 39名
合計 68名 43名

正会員は4名のまま変わらない。2022年の審査報告書は、この構造を確認している。

正会員の4名は役員を兼ねる実働メンバーであり、コロナ禍においてイベント等が減少していることから役員会等の会合は減少しているものの、SNSなど他の手段等を活用し、十分なコミュニケーションは図られている。賛助会員は1回でも賛助金を支出した方を名簿化したもので、年会費という考え方はとっていない。

つまり実働は4名である。賛助会員は寄付やボランティアで協力した人の名簿であり、議決権を持たない。

会長の羽場氏は、いなべフェアトレードタウンの特徴を4つ挙げている。

  1. オリジナル商品開発
  2. ローカルフェアトレード(地産地消)の推進
  3. 市内イベントの開催
  4. 若い世代との連携・交流

いずれにも「地域の商店街を元気にしたい」という動機が一貫していると報告書は記す。目標は「たくさんの人が関わりながら、フェアトレードを通じて世界的問題を解決すると同時に、地域の課題も解決」であり、手法は「まちの人や行政との連携」である。

認定委員会が「サーバントリーダーシップ」と呼んだもの

2025年の審査報告書に、この組織の動き方を説明する一節がある。

代表の羽場氏は、対面でのコミュニケーションと信頼関係を重視し、フットワーク軽く「いなべの三河屋(一軒一軒家をまわる酒屋の御用聞き)」と調査中に誰かが比喩していた通り、日々まちをつないでいる。(中略)これらは、アクターが活躍しやすいような土壌作りに徹するサーバントリーダーシップ的姿勢であり、結果的に協力者の自主的な取り組みが促されていた。まちづくりの一翼としてのタウン運動のひとつのモデルと言えるかもしれない。

組織を大きくするのではなく、動く人が動きやすい状態をつくる。それが正会員4名で成り立っている理由である。

※ 出典: いなべフェアトレードタウン 公式サイト「団体概要」「会員」

取り組み

基準1 推進組織の設立と支持層の拡大

2025年の審査報告書は、少人数体制の強みと弱みを両方書いている。

強みの側。

推進委員会は、少数の実働メンバーのみの体制が続いているものの、関係団体とはコミュニケーションを大事にしながら丁寧な信頼関係を築いている。(中略)丁寧な関係性づくりにより、関係者の自主的な活動が促されている。これらの緩やかな関係性が広がることで、フェアトレード以外の市内イベントを紹介されるなど、集客や広報の面で他の市民活動と相互に貢献しあっており、推進委員会の機能を補完している。

弱みの側。

ただし持続可能性については、役員も課題として認識をしており、中長期的に正会員増強を目指す意思があることを確認した。会の運営面では議事録の不在などの不備も見られたが、人員不足のためというより現状としての必要性の認識の相違であり今後改善が見込まれている。

そして、より踏み込んだ指摘が総括にある。

メンバーの拡大についても平日の昼間に活動可能な人材を対象としていることで、多様な意見反映が乏しくなり、民主的運営、継続性が危ぶまれる可能性もあり得る。

「平日昼間に動ける人」という条件が、そのまま会員層を規定している。

基準2 運動の展開と市民の啓発

集計期間 イベント回数 うちメディア報道
認定時(2019年) 2018年5月〜2019年2月(10か月) 15回 4回
1回目の更新(2022年) 過去3年間 32回 —
2回目の更新(2025年) 2022年5月〜2025年3月 22回 20回

注目すべきはメディア報道の比率である。2025年の集計では、22回のイベントのうち20回が報道されている。約9割である。(浜松市は37回中29回で約8割、逗子市は26回中12回。)

2025年の審査報告書は、この背景を説明している。

認定当初に比べ定例的なイベントはメディアに載りづらくなっているとのことだが、メディアの取り上げ率は比較的高いといえる。その背景として、特筆すべきは一般社団法人グリーンクリエイティブいなべ(GCI)の果たす役割である。

GCIは、いなべ市の100%出資で設立されたまちづくり法人である。市役所に隣接する商業イベントエリア「にぎわいの森」や観光案内所を運営し、シティプロモーション事業を企画運営する。フェアトレードは、GCIが発信する市のコンテンツのひとつとして扱われている。

官民協働で世界と地域社会を繋げながら、持続可能な価値観の浸透という目的において、フェアトレードも市のコンテンツの一つとして活用されるとともにタウン側も認知度向上の機会として相互活用されている。

若い世代との連携も継続している。産官学連携で「いなべティーンフェアトレードブック」を毎年発行している。2022年には藤原中学校1年生が市内30以上の事業者を調査し、株式会社モリサワの協力で「伝わる資料を作ろう!」の出前授業を受け、多言語配信サービス「Catalog Pocket」で10言語配信・発表会を行った。

基準3 地域社会への浸透

事例数
認定時(2019年) 4団体(5件)
1回目の更新(2022年) 認定時より減少(飲食店等を基準5に整理した結果)
2回目の更新(2025年) 3団体(FT産品の職員利用)+2団体(普及活動)

2025年に確認された利用は次のとおりである。

  • いなべ市役所:毎年インターン生10数名にオリジナルのフェアトレードトートバッグを配布
  • いなべ市:現在39団体あるSDGs推進パートナーの認定証、および商工観光課職員の名刺にフェアトレードのバナナペーパーを使用
  • 医療機関:窓口で患者向けの広報。報告書は「無・低関心層へのアプローチとして効果的」と評価

SDGs推進パートナーの認定証がバナナペーパーでできているというのは、行政文書そのものをフェアトレード産品にした例である。39団体に配られている。

※ 浜松市でも市職員の名刺にバナナペーパーが使われている(2023年の現地調査で確認)。2市で同じ手法が独立に採られている。

基準4 地域活性化への貢献

中心にいるのはGCIである。

2025年の審査報告書はこう書く。

inabe’s Shop / GCI が市の地域活性化を進めるための中心的な役割を果たしており、そのためのイベント等にフェアトレードが町の紹介ツールの一つとして活用されている。また推進委員会自身も、地産地消など国内フェアトレードの推進を目的の一つとしており、共感を得やすい状況を意識している。

規模の小さなエリアゆえに、推進委員会も官民両方と活動を進めるにつれて様々なネットワークに重複して関わることとなり、活動の継続が、市内の人的交流や情報共有の促進につながっている。

小さいがゆえに、関わる先が重なる。それが情報共有を早める。

2019年の認定時に確認された連携事例は4件。放課後こども教室「ほくせい」、和菓子屋との商品開発(和サブレー)、活動拠点「桐林館阿下喜美術室」とのカレー開発、デンソー大安製作所への出店である。和サブレーとカレーは商品化され、現在も販売が続いている。

2022年には、農業法人がフェアトレードの原材料で洋菓子を製造する際に、市社会福祉協議会が運営する施設と連携し、障がい者の働く場の確保に寄与している例が確認された。

また、フェアトレードタウンマップが「市内を周遊するためのツール」として使われ、中心市街地の活性化や観光施策に寄与していることも確認されている。

基準5 地域の店等によるフェアトレード産品の幅広い提供 — この事例の中心

まず数字を見る。

認定時(2019年) 1回目の更新(2022年) 2回目の更新(2025年)
人口 45,625人(2019年2月) 44,800人(2022年3月) 44,426人(2025年3月)
必要店舗数 5店 4店 5店
実績(カウント数) 6.5店 31店 29店
必要数に対する倍率 1.3倍 7.8倍 5.8倍
専門店 カフェ&ギャラリー コナラ — inabe’s Shop

認定から3年で、6.5店が31店になった。

ただし、この数字はそのまま取扱いの実数の増加を表すものではない。

基準5の店舗数は、GMS・スーパー等でフェアトレード産品が販売されている場合も0.5店ないし1店として数えている。したがって店舗数の増加には、取扱いを把握・計上できる体制が整ったことによる面も含まれる。

(出所:内山代表理事の説明(2026年8月30日))

以下に記録するのは、推進組織が実際に行った実務である。

2022年の審査報告書が、その方法をそのまま記録している。

特筆すべきは、認定後に取扱店が急増したことである。その背景には、いなべフェアトレードタウンの会員自らが店舗を巡回訪問し、新たな取扱店を開拓するとともに、既存取扱店の支援を行う独自の取り組みがある。

商品の取り寄せ先や取扱店ごとに担当制とし、各取扱店の状況に応じ、委託販売としたり、買取りとしたりするなど柔軟な対応を行っている。取引量が一定額に達しないと送料を負担しなければならないため、複数店舗の分をまとめて仕入れられるよう調整も行っている。

定期的に訪問し、商品の補充や集金を行うほか、ポップを作成したり、フェアトレードタウンマップを配架したりするなど丁寧な支援を行っている。新たに取り扱うこととなる店舗には、賞味期限のない塩や砂糖を勧めるといった工夫もある。

こうした取り組みの成果が、まちじゅういたるところにフェアトレード産品が置かれているという状況として表れている。

分解すると、6つの実務である。

# 何をしたか なぜ効くか
1 取扱店ごとに担当制を敷く 誰が誰をフォローするかが決まる。放置される店が出ない
2 委託販売と買取りを店ごとに使い分ける 店側の在庫リスクを店ごとに調整できる
3 複数店舗分をまとめて仕入れる 1店では送料負担が発生する取引量を、束ねることで解消
4 定期訪問で補充と集金を行う 店側の手間がほぼゼロになる
5 ポップとマップを推進組織が用意する 店側は置くだけでよい
6 新規店には賞味期限のない塩・砂糖を勧める 売れ残りのリスクを最初から消す

この6つは、いずれも「店側の負担とリスクを推進組織が引き受ける」という一点に向かっている。

2025年の現地調査でも、同じ姿が確認されている。

協力店舗訪問時に何件か同じようなFT商品の詰め合わせが見られた。おそらく気軽に店舗に置けるように推進組織から提案されたのだと思われる。さらに、販売における経済的リスクを下げるために、推進組織で一括購入した商品を希望する各店舗に卸す形態をとっている。

推進組織が事実上の卸になっている。これが正会員4名で29店を支えている仕組みである。

なお、2025年の審査で数字の修正があった。申請書の30店を会長と照合したところ、飲食店の内訳(2品目以上2店・1品目のみ8店)に誤りがあり、正しくは29店と修正された。現地では9店舗を訪問し、2店舗を口頭と写真で確認。申告数の20%(6店舗)以上という審査基準をクリアしている。

基準6 自治体によるフェアトレードの支持と普及

いなべ市のフェアトレードは、2026年度から市の総合計画の柱のひとつになる。

第3次いなべ市総合計画(2026〜2035年度)の第6章「総合的取組事項」に、「6-2 フェアトレードタウンいなべの促進」が置かれた。基本構想の5本柱のひとつである。(他は6-1グリーンクリエイティブいなべ、6-3 SDGs未来都市、6-4 チャレンジ・カーボンニュートラル、6-5 元気みらい都市。)

計画の記述は次のとおり。

市民、企業、商店、行政などが一体となり、フェアトレードの普及、啓発活動を支援します。活動を通じて、地域活性化や交流の機会の創出、市内の経済循環の促進を図ります。また、一連の活動を通じて、弱い立場に置かれた途上国の生産者の自立や環境の保護保全につなげ、持続可能なまちづくりを目指します。

そして、現状と課題も同じ計画に書かれている。

市民の認知度・関心度の低さ、活動の継続性、熱意ある市民団体や個人への依存、担い手不足等が課題となっています。

市の計画が、推進組織の脆弱さを課題として明記している。

KPIも設定された。「フェアトレード商品取扱店舗数」である。

令和3 令和4 令和5 令和6 令和7 令和8 令和9 令和10 令和11 令和12
31 31 37 37 38 39 40 41 42 43

(令和3〜6が実績値、令和7が第2次総合計画の目標値、令和8〜12が第3次の目標値。2030年度に43店を目指す。)

総合戦略にも同じKPIが置かれている(実績値 令和6年度37店 → 目標値 令和12年度43店)。

予算と施政方針

予算書に「フェアトレード」を冠した事業名はない。令和6〜8年度の事務事業別予算説明資料・予算説明資料・当初予算書(合計2,000頁以上)を全文検索してもヒットは0件である。

一方、施政方針での扱いは年度で大きく変わっている。

年度 言及
令和5年度 ブランド化の列挙のなかに1回
令和6年度 同じく列挙のなかに1回
令和7年度 言及なし(0件)
令和8年度 独立見出し「6-3【フェアトレードタウンの推進】」を新設

令和8年度に、初めて独立した項目になった。第3次総合計画の策定と同期している。

市長・市議会

市議会決議は2018年12月21日、市長宣言は2019年2月2日(日沖靖市長)。いずれも全文がいなべ市公式サイトとFTFJのページに掲載されている。

2025年の現地調査では、市長と市議への聞き取りが行われた。

  • 市長:タウン認定以降のフェアトレード取扱店の増加と認知度向上を認識している。今後は「フェアトレードに限らず、商品の製造過程や、廃棄、特に廃棄物処理の視点を重視」する方針
  • 市議:「フェアトレードの基本的な位置付けが整備されつつあり、これに沿った目に見える活動、特に子どもたちへの教育の重要性」を挙げた

ただし、議会での言及そのものは非常に少ない。いなべ市議会の一般質問データベース(令和2年第1回臨時会〜令和8年第2回定例会)を「フェアトレード」で検索するとヒットは0件である。議会だより第81〜90号(令和6〜8年)でもヒットは1件のみで、しかも答弁側の副次的な言及だった。

計画には書かれ、議会では議論されていない。

市民満足度調査

いなべ市は、フェアトレードタウンの認知度を測っている。

市民満足度調査(令和6年6〜7月実施/20歳以上の市民3,000名/回収1,301件・回収率43.4%/全回答者)

設問:本市の近年の取組の認知度

取組 名前も内容も知っている 聞いたことはあるが内容は知らない 知らない 不明・無回答
SDGs未来都市いなべ 36.9% 38.4% 22.9% 1.8%
フェアトレードタウン 17.1% 27.1% 54.2% 1.5%
グリーンクリエイティブいなべ 14.6% 31.2% 52.4% 1.8%
ゼロカーボンシティ 12.3% 27.8% 58.2% 1.7%

あわせて事業所調査も行われている(市内96事業所/回収53件・回収率55.2%)。

取組 行っている(媒体で紹介) 行っている(紹介せず) 今後行う予定 今後も行う予定はない
SDGs 41.5% 28.3% 11.3% 18.9%
ゼロカーボンシティ 18.9% 18.9% 11.3% 45.3%
フェアトレードタウン 0.0% 7.5% 9.4% 79.2%

市内事業所の79.2%が「今後も行う予定はない」と答えている。

2025年の審査報告書は、この結果をこう読んでいる。

この結果から、SDGsの認知度は市民、企業共に高く、企業がFTの取組を全面的に打ち出すには、FTが市の施策とどのように関連しているかを明確に打ち出し、FT推進の意義を市民や企業に伝えて行くかが重要であることがうかがえた。

※ 出典: いなべ市 第3次いなべ市総合計画(令和8年度〜令和17年度)/同 人口ビジョン・総合戦略/いなべ市 令和6〜8年度 予算資料・施政方針/いなべ市議会 一般質問データベース・議会だより ※ すべて公開資料。PDFの該当ページを直接確認済み(2026年8月27日)。 ※ 市民満足度調査の数値は第3次総合計画に掲載されたもの。単独の報告書は公開を確認できなかった。設問の完全な文言と経年推移も確認できていない。

成果

指標 認定時(2019年) 1回目の更新(2022年) 2回目の更新(2025年)
人口 45,625人 44,800人 44,426人
基準5の必要店舗数 5店 4店 5店
商業施設数(カウント数) 6.5店 31店 29店
産品を利用・普及する地元組織 4団体(5件) 減少 3団体+2団体
イベント・キャンペーン 15回(10か月) 32回(3年) 22回(約3年)
うちメディア報道 4回 — 20回
推進組織の正会員 — 4名 4名
賛助会員 — 64名 39名

市民の認知度(令和6年度・全回答者)

いなべ市
フェアトレードタウンを「名前も内容も知っている」 17.1%
「聞いたことはあるが内容は知らない」 27.1%
「知らない」 54.2%

4市の比較 — 人口4万人台の位置

いなべ市は、名古屋市・浜松市・逗子市とは設問の切り方が違うため、そのままは並べられません。参考として、条件を明記したうえで示します。

名古屋市 浜松市 逗子市 いなべ市
人口 約232万人 約76万人 約5.5万人 約4.4万人
調査年 令和7年度 令和7年度 令和7年度 令和6年度
有効回収(回収率) 908人(45.4%) 1,623人(54.1%) 702人(46.9%) 1,301人(43.4%)
自分のまちがタウンだと知っている 2.3% 4.2% 21.8%(試算) 17.1%(名前も内容も)
設問の切り方 知っていた/知らなかった 知っている/知らない はい/いいえ(FTを知る人のみ) 名前も内容も/聞いたことはある/知らない

いなべ市の17.1%は「名前も内容も知っている」の値です。「聞いたことはある」を含めると44.2%になります。名古屋市・浜松市の設問は2択なので、どちらと対応させるかで印象が変わります。厳密な比較には注意が必要です。

それでも傾向は変わりません。人口4万人台のいなべ市(17.1%)と5.5万人の逗子市(21.8%)が、76万人の浜松市(4.2%)と232万人の名古屋市(2.3%)を大きく上回っています。

課題

2025年の審査報告書が挙げた課題は3つである。

1. 推進組織体制の持続性。

前回からの課題であった推進組織体制の持続性については有効な手立てが得られていない。メンバーの拡大についても平日の昼間に活動可能な人材を対象としていることで、多様な意見反映が乏しくなり、民主的運営、継続性が危ぶまれる可能性もあり得る。アクティブなまちづくりの流れにある同市においては、FTの認知度、参加度拡大のチャンスを逃しかねないとも考える。

2. GCIへの依存に伴う脆弱性。

また現在まちづくりに中心的な役割を担うGCIは、自治体の外郭団体であることから、首長の交代や政治社会環境によっては、政策転換などによる脆弱性を常に孕むことも留意すべき点である。

現地調査団は、代替案まで書いている。

例えば移住者中心やアート中心、野外活動中心等様々な分野でFTに関心のある市民グループが緩やかなネットワークでつながりタウン運動の中心を担う名古屋式の運営も一考の余地があるのではないだろうか。

3. 事業者への浸透。

市民満足度調査の事業所調査で、79.2%が「今後も行う予定はない」と答えている。SDGsの18.9%とは大きな差がある。

そのうえで、報告書は市側の姿勢を評価している。

ただ総合計画に見たように、市側でも現状と課題を共有し、まち全体としてフェアトレードタウンいなべの将来像を共有しようとする姿勢は大変心強く、タウン運動と地域活性化の融合が一歩進んだ姿を見た思いである。

第3次総合計画は、2035年の姿をこう描いている。

市内にフェアトレードの価値観と商品が浸透、地産地消とフェアトレードの共存、教育現場でのフェアトレードやSDGsをテーマにした学びが定着し、「人を想った行動」や「未来を考える行動」が当たり前となり”思いやりと共感”の文化が定着、「フェアトレードタウンいなべ」が、まちの魅力・ブランドとして確立、「誰かが頑張る運動」から「みんなで育てる文化」へと発展

「誰かが頑張る運動」から「みんなで育てる文化」へ。これは、正会員4名の推進組織を持つ市が、自分の課題を正確に言い当てた表現である。

【FTFJ編集部による解説】他地域への示唆

1. 取扱店を増やす方法は、すでに文書化されている。

この記事で最も転用価値が高いのは、基準5の6つの実務である。

いなべ市の基準5のカウント数は、認定時の6.5店から3年で31店になった。実行したのは正会員4名である。ただし、この店舗数はGMS・スーパー等での取扱いも0.5店ないし1店として数えており、増加には取扱いを把握・計上できる体制が整ったことによる面も含まれる(出所:内山代表理事の説明/2026年8月30日。「基準5」の節を参照)。方法は特別なアイデアではなく、「店側の負担とリスクを推進組織が引き受ける」という一点の徹底である。

  1. 取扱店ごとに担当制
  2. 委託販売と買取りを店ごとに使い分ける
  3. 複数店舗分をまとめて仕入れ、送料負担を消す
  4. 定期訪問で補充と集金
  5. ポップとマップは推進組織が用意
  6. 新規店には賞味期限のない塩・砂糖から

この6つは、人口規模に関係なく使えます。名古屋市は「都市の規模が大きすぎて調査が困難」という状態が続き、札幌市は基準5のデータを大学の課題実習に頼っています。いなべ市の方法は、区や地区の単位に区切れば大都市でも成立するはずです。

注意点も同じ報告書にある。この方式では、推進組織が事実上の卸になる。在庫と代金回収のリスクを負い、定期訪問の手間を負う。正会員4名でこれを続けているという事実は、強さであると同時に危うさでもあります。

2. 人口が小さいと基準5は楽になる。だからこそ、数字の意味が変わる。

いなべ市に必要な店舗数は5店である。認定時の6.5店は、必要数をわずかに超えるだけだった。その状態で認定されている。

そして3年で31店になった。必要数の約8倍である。

この31店には、前述のとおり、取扱いを把握・計上できる体制が整ったことによる面も含まれる(出所:内山代表理事の説明/2026年8月30日)。

ここに、認定制度の設計上の論点がある。基準5は人口比で決まるため、小さい市では「認定を取る」ことのハードルが低い。だが、いなべ市が示したのは、ハードルが低いことと運動が広がらないことは別だという事実である。

逆に言えば、必要数を満たしただけで止まっている小規模自治体があるなら、それは基準の問題ではなく取り組みの問題です。いなべ市の数字は、その比較の基準点になります。

3. 「まちづくり法人」は強力な相棒だが、外郭団体であることのリスクを抱える。

いなべ市のフェアトレードは、GCI(一般社団法人グリーンクリエイティブいなべ)と組むことで広がった。市の100%出資法人で、にぎわいの森と観光案内所を運営し、直営店 inabe’s Shop がフェアトレード推進店になっている。イベントの発信力も、GCIのシティプロモーションに乗っている。

認定委員会はこれを高く評価したうえで、リスクも明記した。

GCIは、自治体の外郭団体であることから、首長の交代や政治社会環境によっては、政策転換などによる脆弱性を常に孕む

まちづくり法人・観光協会・DMO・第三セクターと組むことは、小規模自治体にとって現実的な選択肢です。同時に、その組織の存立が政治判断に左右されることも織り込んでおく必要があります。分散した市民グループのネットワークで支える名古屋市の形と、まちづくり法人に乗るいなべ市の形は、それぞれ別のリスクを持っています。

4. 【FTFJ自身への申し送り】2022年の認定委員会が求めた「アーカイブ化」に、FTRCが応える。

2022年のいなべ市の更新審査で、認定委員会は理事会に次を申し送っている。

認定申請に当たり、基準1から基準6までの、どの基準に現状を当てはめ、記述していくかには難しい点もあり、今回の更新申請では、素晴らしい活動があるにもかかわらず十分にアピールできていない状況であった。特に、いなべ市のように推進組織の体制が強固でない場合は、そうなってしまう傾向があると感じられ、今後の新規、更新の認定に当たっては、過去の申請書や報告書のアーカイブ化や書き方のマニュアル作成、FTFJ事務局での指導など、何らかの支援措置をとる必要があると考える。

FTRCは、この指摘への回答になりうる。

事例記事16本は、各タウンが「どの基準に何を書いたか」の実例集でもあります。いなべ市の基準5の6つの実務は、次に申請する地域がそのまま参照できる形になりました。

2025年の報告書は、さらに踏み込んだ提案をしています。

推進委員会メンバーの調査への同行自体が、メンバーにとっては、協力者の声を改めて聴く機会となり学びや気づきを得ていた。更新調査は、関係者にとってもあらためてフェアトレードタウンのアクターの取組みを俯瞰し、言語化する試みの機会としても意義深い。申請書書式の書きづらさなどの改善点も挙げられているが、交流や振り返りの機会として再構成することも考えられるのではないだろうか。

更新審査を「試験」ではなく「振り返りの機会」として設計し直す。この提案は、認定制度そのものの見直しに関わります。FTRCの事例記事は、その振り返りの素材にもなります。

※ 文責: 内山大志


出典

  1. いなべ市「フェアトレードの取り組み」 https://www.city.inabe.mie.jp/shisei/keikaku/1008293/1008057/index.html (取得日 2026-08-27)
  2. いなべ市「いなべ市議会によるフェアトレードの取組に関する決議」(平成30年12月21日) https://www.city.inabe.mie.jp/shisei/keikaku/1008293/1008057/1008059/1008074.html (取得日 2026-08-27)
  3. いなべ市「いなべ市フェアトレード宣言」(平成31年2月2日) https://www.city.inabe.mie.jp/shisei/keikaku/1008293/1008057/1008059/1008058.html (取得日 2026-08-27)
  4. いなべ市「フェアトレードマップ」(令和7年5月現在・38店舗) https://www.city.inabe.mie.jp/shisei/keikaku/1008293/1012124.html (取得日 2026-08-27)
  5. いなべ市「藤原中学校の取組」 https://www.city.inabe.mie.jp/shisei/keikaku/1008293/1012316.html (取得日 2026-08-27)
  6. 第3次いなべ市総合計画(令和8年度〜令和17年度) https://www.city.inabe.mie.jp/shisei/keikaku/keikaku/1015709/index.html 全編PDF https://www.city.inabe.mie.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/015/709/soukei_zenpen.pdf (取得日 2026-08-27)
  7. いなべ市 人口ビジョン・総合戦略 https://www.city.inabe.mie.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/015/709/vision.pdf (取得日 2026-08-27)
  8. いなべ市 第2期SDGs未来都市計画(2023〜2025) https://www.city.inabe.mie.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/009/976/dai2ki_sdgsmiraitosikeikaku.pdf (取得日 2026-08-27)
  9. いなべ市 令和8年度 施政方針 https://www.city.inabe.mie.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/015/860/08housin.pdf (取得日 2026-08-27)
  10. いなべ市 予算 https://www.city.inabe.mie.jp/shisei/zaisei/yosan/index.html (取得日 2026-08-27)
  11. いなべ市議会 議会だより https://www.city.inabe.mie.jp/gikai/gikaidayori/index.html (取得日 2026-08-27)
  12. いなべ市 人口・世帯数 https://www.city.inabe.mie.jp/shisei/tokei/1005320/1002568.html (取得日 2026-08-27)
  13. いなべフェアトレードタウン 公式サイト https://inabefairtradetown.wordpress.com/ (取得日 2026-08-27)
  14. 日本フェアトレード・フォーラム「三重県いなべ市」 https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/inabe (取得日 2026-08-27)
  15. 日本フェアトレード・フォーラム「いなべ市をフェアトレードタウンとして2度目の更新認定」 https://fairtrade-forum-japan.org/archives/4563 (取得日 2026-08-27)
  16. 日本フェアトレード・フォーラム「藤原中学校の取組」(2022年11月) https://fairtrade-forum-japan.org/archives/2213 (取得日 2026-08-27)