鎌倉市は2025年3月4日付で、日本で7番目のフェアトレードタウンに認定された。人口約17万人、年間1,600万人以上が訪れる観光都市である。
きっかけは、隣のまちだった。
現地調査で松尾崇市長はこう語っている。
フェアトレードタウンをめざすきっかけとなったのは、隣接する逗子市の認定であり、市民発意でされている取り組みと聞き、素晴らしいと感じていた。
そして市長は、フェアトレードタウンを4期目の市長選マニフェストに掲げた。
だが、市長は「行政が引っ張る」とは考えなかった。
鎌倉市では行政が何かの価値観を上から押し付けるのはなじまないので、市民の活動の自主性を尊重しながら、行政は黒子になって支えることが重要と考えている。
この記事は、その「黒子」が具体的に何をしたかの記録である。中心にあるのは、令和5年度に創設された上限20万円の補助金である。
背景
鎌倉市の運動には、2つの流れがある。市民の側と、議会・行政の側である。
議会・行政の側は、6年前から準備していた
鎌倉市議会にはSDGs議員連盟がある。定数26名のうち20名が参加している。
現地調査報告書は、この議連の動きを次のように記録している。
全会一致の決議に至った要因としてSDGs議員連盟の活動がある。これには定数26名のうち20名の議員が参加し、令和2年には全国で2番目の「鎌倉気候非常事態宣言」を発出した。令和元年度の活動計画では、すでに「フェアトレードタウン実施に寄与する決議の提出を見据えた活動」が位置付けられていた。
2019年度の時点で、議会側が決議を計画していた。推進組織「鎌倉エシカルラボ」の設立は2023年5月である。受け皿のほうが4年早い。
行政の側も同様である。鎌倉市は平成30年(2018年)6月15日にSDGs未来都市に認定され、鎌倉市総合計画基本計画の重点事業としてエシカル消費推進事業が5か年・約400万円の事業規模で位置づけられた。
市民の側は、2023年に動き出した
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2019年度 | 市議会SDGs議員連盟の活動計画に「フェアトレードタウン実施に寄与する決議の提出を見据えた活動」 |
| 2020年 | 全国2番目の「鎌倉気候非常事態宣言」 |
| 2023年1月 | 「フェアトレードタウン鎌倉ゼロ次会」開催(鎌倉市主催、推進団体設立前) |
| 2023年2〜4月 | メンバー集め、投票で団体名を決定 |
| 2023年5月13日 | 鎌倉エシカルラボ 設立総会(世界フェアトレード・デー) |
| 2023年5月 | 逗子フェアトレードタウンフォーラム2023で名称を発表、活動開始 |
| 2023年9月〜 | 毎月、市内イベントに出店 |
| 2023年12月16日 | 単独主催「鎌倉フェアトレードCHRISTMAS」(来場約200名) |
| 2024年1月 | 三本珈琲・国分首都圏・鎌倉市と協働でコーヒー開発を開始 |
| 2024年5月 | 味・パッケージデザインの投票イベント(900人超が参加) |
| 2024年8月 | 「鎌倉焙煎珈琲 フェアトレードかまくらブレンド」発売 |
| 2024年8月 | 鎌倉市議会議員研修会で「フェアトレードタウンについて」講義 |
| 2024年10月2日 | 市議会が「フェアトレードの取組を広げる決議」を全会一致で可決 |
| 2024年10月29日 | 松尾崇市長が定例記者会見で「鎌倉市フェアトレード宣言」 |
| 2024年10月31日 | FTFJへ認定申請(12月3日に最終申請書を提出) |
| 2025年1月23日・27日 | 現地調査(小林尚朗委員・石井聡委員) |
| 2025年3月4日 | フェアトレードタウン認定(日本で7番目) |
| 2025年3月7日 | 「フェアトレードかまくらブレンド」がソーシャルプロダクツ・アワード2025 大賞 |
| 2025年5月6日 | 認定記念式典(鎌倉市議会議場、鎌倉市との共催) |
| 2025年11月13日 | 第2回フェアトレード・ジャパンアワード ソーシャルムーブメント部門 優秀賞 |
推進組織の設立から認定まで1年10か月。札幌市(1年3か月)、いなべ市(1年5か月)に次ぐ速さである。
「ゼロ次会」を市が主催しているのが特徴的である。推進団体がまだ存在しない2023年1月の時点で、市が場をつくっている。
※ 出典: 鎌倉市「フェアトレードタウンの取組」ページ/鎌倉市 記者発表(2025年3月14日)/FTFJ 神奈川県鎌倉市ページ ※ 「フェアトレードタウン鎌倉ゼロ次会」の日付は情報源で1日食い違う。鎌倉市サイトは「令和5年1月15日に安国論寺観音堂で開催」、FTFJサイトは「2023年1月16日」。
主体
推進組織は鎌倉エシカルラボである。2023年5月13日の総会により設立された。
特徴は共同代表制である。
| 役職 | 氏名 |
|---|---|
| 共同代表 | 稲葉哲治 |
| 共同代表 | 末吉里花 |
| 共同代表 | 平野祥子(設立当初の森皆子氏の後任。会計を兼務) |
| 監事 | 澤渡俊仁 |
会員は個人会員24名、法人会員3名(2025年1月の現地調査時点)。
現地調査報告書は、3人代表制の理由を記録している。
組織形態は、3人代表制を採っている点が特徴的であるが、持続的な組織とするためには複数の代表を、また、合議でのバランスを考え、3人の代表としており、3者が役割を分担することでよりよい運営ができているとのことである。
運営コストのかけ方も特徴的である。
団体の活動場所としては、えしかる屋で顔を合わせることが多いが、打ち合わせはオンラインで行われることが多い。情報共有のツールとしてグループチャットが活用されており、極力事務コストをかけない運営がなされているのも特徴的である。
そして、設立から日が浅いことは認定委員会も認めている。そのうえで、こう判断した。
活動メンバーは設立準備を契機として集まったものであり、団体設立から日が浅いことは否めないが、フェアトレードやエシカル消費について十分な知識や活動経験を有するメンバーが数多く加わっており、それぞれが市民活動の経験も十分に持っていることから、推進団体として持続的に運動を続けていくことができるものと判断できる。
また、共同代表制やオープンチャットの活用に象徴されるように、できる限りフラットで透明性の高い運営を行うための工夫がなされており、今後も民主的な運営が維持されることが期待できる。
組織は新しいが、人は新しくない。それが判断の根拠だった。
会則の「目的」にフェアトレードが書かれている
会則第3条は次のとおりである。
当会は、鎌倉市のフェアトレードタウン認定及び継続を目指すとともに、鎌倉にゆかりのある多様な人々と寄り合いながら、海・山・川などの自然に恵まれ、豊かな歴史・文化を誇り、人と人とのつながりを大切にする暮らしが息づく鎌倉を一つの実験の場(ラボ)として、大量生産・大量消費・大量廃棄にもとづくこれまでの社会経済の転換を模索し、(中略)今の世代も次の世代も希望をもってエシカルに生きられる鎌倉をつくることを目指します。
浜松市の会則が「目的」からフェアトレードの語を意図的に外したのとは対照的である。(浜松市は「将来フェアトレードにとらわれず、広くエシカル消費運動への広がりを意識していた」と説明している。)
団体名は「エシカルラボ」で、目的にはフェアトレードを明記する。鎌倉市は逆の設計を採った。
※ 出典: 鎌倉エシカルラボ 公式サイト/タウンニュース鎌倉版(2025年3月21日)
取り組み
基準2 運動の展開と市民の啓発
イベント・キャンペーンは2023年に7回、2024年(1〜10月)に12回。メディアに取り上げられた回数は21回である。
鎌倉の特徴は、推進組織が主催者にならないことである。
鎌倉の特長として、イベントは推進組織が主催するというよりも、他の団体が主催するイベントに推進組織も参加するという形が多い点が挙げられる。この点は、多くの市民活動が行われている鎌倉において、「エシカルな仲間」たちとのコラボという精神が表れている。
具体例として、鎌倉女子大学の学園祭「みどり祭」で、推進組織と鎌倉市の共催企画として映画「バレンタイン一揆」の上映&トークショーが行われた(2023年11月4日、来場約30名)。学園祭という「場」に出かけていって実施するスタイルである。
単独主催のイベントもある。「鎌倉フェアトレードCHRISTMAS」(2023年12月16日、ハリス記念鎌倉幼稚園のホール)。フェアトレードの紹介と商品販売、絵本の読み聞かせ、エシカルファッションショー。多様な告知方法を用いた結果、子どもから年輩まで約200名が来場した。
そして、製品開発そのものをイベントにしている。2024年、「フェアトレードかまくらブレンド」の試飲会&パッケージデザイン投票会が数回開かれた。3種類のコーヒーとパッケージデザインの候補から、推しの味とデザインに投票してもらう形式である。
できるだけ多くの人に製品開発に関わってもらいたいという思いがあったとのことである。
900人以上が参加した。
基準3 地域社会への浸透 — 33カ所
フェアトレード産品を利用・普及している地元組織は、企業7カ所、教育機関26カ所、合計33カ所。
認定時点の数としては、他市を大きく上回る。(浜松市の認定時は10カ所、いなべ市は4団体、札幌市は4件。)
現地調査で訪問した4カ所は、それぞれ性格が異なる。
① 株式会社 豊島屋(代表取締役社長 久保田陽彦氏。鎌倉商工会議所の会頭)
末吉代表との交流からエシカル活動に関心を深め、商工会の会合や市内外の経営者の集いで勉強会を開催するようになった。自社製品の脱プラも進めている。2024年10月から「フェアトレードかまくらブレンド」の社内消費を開始。
ただし、実務上の課題も具体的である。社内で提供するには個包装のドリップパックは非効率で環境負荷も大きいため、製造元の三本珈琲に業務用コーヒーの開発を依頼済みである。
② 民泊きみえ・こども食堂(店主 瀬戸貴美恵氏)
郊外で民泊とこども食堂を経営し、宿泊者や食堂利用者にフェアトレードかまくらブレンドのドリップパックを提供している。「食堂ではオーガニック素材などを提供しているが、フェアトレードが出てきたので導入するようになった」とのこと。
③ ハリス記念鎌倉幼稚園
2008年からバザーでパルシックのコーヒーやウバ茶、シャプラニールのクラフトリンク製品を販売している。推進組織の設立より15年早い。園児がフェアトレードコットン製の巾着袋やポーチに絵を描いて販売する取り組みや、家庭で購入したフェアトレード産品のパッケージを集めてバザーで展示する取り組みも行われている。
④ 鎌倉市教育委員会 — フェアトレード給食
- 公立小学校16校、完全給食、1日あたり7〜8千食
- 公立中学校9校、デリバリー式で3千食
- 2022年度にフェアトレード給食を開始
特徴的なのは、学校ごとに使用する産品も献立も違うことである。各校が「給食ひとくちメモ」を各クラスに配布し、フェアトレードそのものや使用食材の特徴を伝えている。
コストの手当ても記録されている。
フェアトレード給食のコストはかさむが、給食予算(私費会計であるが)に上乗せする形で組まれている地場・オーガニック食材用の市の別予算から賄うことで対応している。
「地場・オーガニック食材用の予算」でフェアトレード食材を賄う。この整理は、他市が給食導入を検討するときの参考になる。
さらに、児童からの要望で給食用のプラスチック製ストローを生分解性素材に変更した事例もある。
基準4 地域活性化への貢献
① 鎌倉焙煎珈琲「フェアトレードかまくらブレンド」
三本珈琲は鎌倉市内に工場を持ち、もともと「鎌倉焙煎珈琲」という銘柄で鎌倉らしいパッケージの有機コーヒーを販売していた。2023年1月の「フェアトレードタウン鎌倉ゼロ次会」をきっかけに、フェアトレードコーヒーづくりに舵を切った。
市役所・鎌倉エシカルラボ・国分首都圏・三本珈琲の4者で開発に着手し、市民の投票を経て2024年8月に販売開始。
- コーヒーの生産過程で障がい者17名を雇用
- 売り上げの一部を鎌倉市の緑地保全基金に寄附
- 418円(税別)/64g(8g×8袋)/フェアトレード認証農園産コーヒー豆100%(ブラジル・コロンビア産)
申請書に記載がなかった取り組みも、現地調査で確認されている。
フェアトレードコーヒーのロス豆などを市内のイベントや市内の企業に無償で提供し、フェアトレード産品の普及や地域活性化に寄与している。
2025年1月には、豊島屋に業務用コーヒーの代わりとして3kgのロス豆が提供された。
この商品は2025年3月7日にソーシャルプロダクツ・アワード2025 大賞を受賞し、同年11月13日には第2回フェアトレード・ジャパンアワードのソーシャルムーブメント部門で優秀賞を受賞している。
② 富士見町町内会によるフェアトレード壁画
鎌倉市小袋谷のJR横須賀線高架下トンネルは、20年前に描かれた絵が劣化していた。「鎌倉市フェアトレード推進事業費補助金」を活用して、地元アーティストのかおかおパンダ氏に制作を依頼。下地塗りや制作時の交通誘導は町内会のメンバーが行った。
壁画には、フェアトレード・ラベル・ジャパンと調整のうえ国際フェアトレード認証ラベルがデザインされている。
タウンニュース等で報道され、「見たという反響も多く、道路が明るくなった」と好評だった。
認定委員会の評価はこうである。
フェアトレードかまくらブレンドは、企業、役所、推進組織の共同事業として、フェアトレードタウンを目指す鎌倉の象徴になっている。また、町内会と地元アーティストの企画に役所が補助金を出して制作されたフェアトレード壁画は、文字通りの地域活性化につながっている。
基準5 地域の店等によるフェアトレード産品の幅広い提供
人口170,206人(2024年10月1日)に対して必要な店舗数は17店。
| 店舗数 | |
|---|---|
| 2品目以上 | 20店 |
| 1品目のみ | 12店 |
| カウント数(X+Y×0.5) | 26店 |
| 必要数に対する倍率 | 1.53倍 |
推進店は「えしかる屋」(2021年1月オープン)。フェアトレードかまくらブレンド、ピープルツリー、第3世界ショップの製品のほか、「エシカルを日常へ」をテーマにオーガニック素材や廃棄物再利用のサステナブル素材の服、アクセサリー、日用雑貨、食品を扱う。国内のエシカル製品も豊富である。
えしかる屋は、推進組織の事務所でもある。店長の黒崎りえ氏も推進組織のメンバーで、会合やイベントの会場にもなっている。「文字通り推進店の役割を果たしている」と報告書は記す。
もう1店、認定より20年古い店がある。かまくら富士商会(店主 田島圭美氏)。鶴岡八幡宮のすぐ近くの木工品とフェアトレードの店で、2005年12月に開業した。店主がテレビでフェアトレードの服を見て興味を持ち、父親が営んでいた作業場を改築して始めた。ネパリ・バザーロやシャプラニールとの交流から仕入れたアジアの雑貨・バッグ・衣類に加え、現在はピープルツリーのチョコレートなども扱っている。
現地調査では5店舗を訪問し、すべてでフェアトレード産品の販売を確認した。申請書に記載がなかったものとして、市役所内の売店での販売と、鎌倉プリンスホテルでの「フェアトレードかまくらブレンド」販売開始も確認されている。
基準6 自治体によるフェアトレードの支持と普及 — この事例の中心
議会 — 決議は委員会提出だった
2024年10月2日、鎌倉市議会は「フェアトレードの取組を広げる決議について」(議会議案第2号)を全会一致で可決した。
注目すべきは提案の形である。
決議案は、鎌倉市議会本会議において全会一致で可決されたが、提案者は消費者行政を所管する総務常任委員会の委員長である中村氏である。決議案は長嶋副委員長が中心となって起草し、そこには、「よって鎌倉市議会として、鎌倉からフェアトレードの取組を広げていくことを宣言する。」とあり、市議会が自律的に責任をもってフェアトレードを推進することが表現されている。
会派提出ではなく、常任委員会からの提出である。そして決議文は「フェアトレードの理念を支持する」ではなく「鎌倉からフェアトレードの取組を広げていくことを宣言する」と書かれている。
他市の決議と読み比べると、違いがはっきりする。
| 都市 | 決議の結び |
|---|---|
| 浜松市(2017年) | 「ここにフェアトレードの理念を支持することを表明するものである」 |
| 札幌市(2018年) | 「ここにフェアトレードの理念を支持することを表明するとともに、その理解がより一層広がることを望む」 |
| 逗子市(2016年) | (フェアトレードの理念を支持する決議) |
| 鎌倉市(2024年) | 「よって鎌倉市議会として、鎌倉からフェアトレードの取組を広げていくことを宣言する」 |
「支持する」ではなく「広げていくことを宣言する」。議会自身を主語にしている。
決議文は、観光都市であることを根拠に置いている。
多くの歴史的遺跡と文化的遺産を持ち、世界中から多くの人々が訪れる鎌倉市は、フェア(公正)なコミュニケーション(意思疎通)があるコミュニティー(地域)を形成するまちとして、またエシカルの理念があふれているまちとして、フェアトレードの取組を広げる役目を担っている。
2024年8月には、市議会議員研修会で「フェアトレードタウンについて」の講義が行われている。講師はフェアトレード・ラベル・ジャパンの職員と鎌倉エシカルラボの会員だった。決議の2か月前である。
市長 — 「行政は黒子」
2024年10月29日の定例記者会見で、松尾崇市長が「鎌倉市フェアトレード宣言」を行った。
現地調査での市長の発言には、3つの判断が示されている。
判断1:きっかけは逗子市の認定だった。
フェアトレードタウンをめざすきっかけとなったのは、隣接する逗子市の認定であり、市民発意でされている取り組みと聞き、素晴らしいと感じていた。
判断2:所管をどこに置くか。
自治体としてのフェアトレードの取り組みには、国際交流や環境、消費と様々な切り口があるが、鎌倉市ではエシカル消費が最も入りやすいと考え、消費者行政の部署で担当することとした。
これは、FTRCがここまで5市を書いて確認してきた「所管部局が施策の形を決める」という論点に、市長自身が答えたものである。名古屋市は環境局、浜松市は消費生活、逗子市は市民協働、札幌市は国際部。鎌倉市は、選択肢を並べたうえで消費者行政を選んでいる。
判断3:行政の立ち位置。
鎌倉市では行政が何かの価値観を上から押し付けるのはなじまないので、市民の活動の自主性を尊重しながら、行政は黒子になって支えることが重要と考えている。
市長はこれを4期目の市長選マニフェストに掲げた。
「黒子」の中身 — フェアトレード推進事業費補助金
令和5年度、鎌倉市は「フェアトレード推進事業費補助金」を創設した。
| 対象 | 市民団体/事業を営んでいる法人又は個人 |
| 対象事業 | イベント事業・情報発信事業等 |
| 補助率 | 3分の1 |
| 上限 | 20万円 |
財源の設計が難しかったことも記録されている。
この予算の財源には、国(消費者庁)の補助金を特定財源として活用しているが、直接市が実施しない事業に充てるという前例(間接補助)がなかったため、理解を得るための苦労はあったが、なんとか獲得することができた。
市が自ら実施する事業ではなく、市民団体の事業に国の補助金を回す。その前例をつくるところから始めている。これが「黒子になって支える」の具体的な中身である。
この補助金は実際に使われている。前掲の富士見町町内会の壁画は、この補助金で制作された。タウンニュース(2025年3月21日)は、2025年度に補助金を活用した推進企画が5件あったと報じている(壁画制作、ハロウィーンイベントでのチョコレート菓子配布など)。
そして、制度設計と実態にズレが出た。
令和8年度(2026年度)予算で、補助金は60万円から9万円に減額されている。市議会での説明はこうである。
当初、20万円の補助額なので、3分の1なので60万円規模の事業に対して、3分の1補助で20万円を3件で、それで60万円という計算をしていたんですけれども。で、やっていく中で、そんなに大きな規模の事業が実際にはなくて、それで減額しています。実態に合わせて減額しただけで、決して縮小しているというところではない(中略)令和7年度は、現時点で7件、申請が来ておりまして、金額的には1万円とか1万2000円とか、これは主に学童でやっている子供向けの事業の申請が多い (令和8年一般会計予算等審査特別委員会・2026年3月6日、小川共生共創部次長)
上限20万円で3件を想定したところ、実際には1万円規模の申請が7件来た。
金額は小さく、件数は多い。そして「主に学童でやっている子供向けの事業」である。参考までに、令和5年度のフェアトレード推進事業費補助金の決算額は2万9,000円だった(2024年9月19日 決算特別委員会・地域共生課答弁)。
公共調達と庁舎
- 秘書課が、市長の市外訪問時の土産として「フェアトレードかまくらブレンド」を採用(市の秘書課で購入)
- 小中学校の学校給食でフェアトレード産品を利用(前掲)
- 小学校でフェアトレードのサッカーボールの購入を検討
- 市庁舎の食堂は廃止されており、職員厚生会が運営する購買部でフェアトレードのチョコレート、フェアトレードかまくらブレンド、バナナペーパーを使った文房具を販売。市職員だけでなく一般も利用できる
手作りのポップやポスターなどで飾られており、協力的な姿勢が伺える。特にフェアトレードかまくらブレンドが多く購入されるとのことであった。
- 鎌倉ロータリークラブからフェアトレード認証ゴマの寄附を受け、5月のフェアトレード月間に合わせて市立小中学校の給食に使用(贈呈式を開催。ニカラグア共和国大使からメッセージ)
※ 出典: 鎌倉市「フェアトレードタウンの取組」ページ/鎌倉市 予算事項別明細の内容説明(令和7・8年度)/鎌倉市議会 会議録検索システム/鎌倉市議会 議会議案第2号(2024年10月2日)/タウンニュース鎌倉版(2025年3月21日)
成果
| 指標 | 認定時(2025年3月) |
|---|---|
| 人口 | 170,206人(2024年10月1日) |
| 基準5の必要店舗数 | 17店 |
| 商業施設数(カウント数) | 26店(2品目以上20店+1品目のみ12店) |
| 必要数に対する倍率 | 1.53倍 |
| 産品を利用・普及する地元組織 | 33カ所(企業7・教育機関26) |
| イベント・キャンペーン | 2023年 7回/2024年(1〜10月) 12回 |
| メディア報道 | 21回 |
| 推進組織の会員 | 個人24名・法人3 |
| 推進組織の設立から認定まで | 1年10か月 |
行政計画への位置づけ — KPIはない
鎌倉市には、フェアトレードのKPIがありません。
| 計画 | 位置づけ |
|---|---|
| 第3次鎌倉市総合計画 第4期基本計画(令和2〜7年度) | 「フェアトレード」の記載なし(「エシカル消費」が脚注に1回) |
| 同 実施計画(事業CD 6-4-1-1 エシカル消費推進事業) | 事業工程として記載(KPIではない) |
| 第2期SDGs未来都市計画(2021〜2023) | 「フェアトレードショップ」という例示が1回のみ |
| 市長施政方針(全期間) | 言及なし(0件) |
実施計画の事業工程には、認定までの手順がそのまま書かれています。
エシカル消費の普及啓発/フェアトレードタウンの認定に向けた情報発信及びイベント等の支援/フェアトレードタウン推進組織の設立支援(R5)/フェアトレードタウンの認定に向けた事業者参画の推進(R6)/フェアトレードタウンの認定申請支援(R7)
「推進組織の設立支援」が、市の実施計画に事業工程として書かれている。2023年1月の「ゼロ次会」を市が主催したのは、この計画に沿った動きである。
一方、基本計画の成果指標(KPI)4本には、フェアトレードは入っていません。
| 指標 | 初期値 | R7目標 | |
|---|---|---|---|
| ① | 消費生活相談苦情件数 | 1,970件(H30) | 1,700件 |
| ② | 同 自主交渉率 | 73.4%(H30) | 75.0% |
| ③ | サステナブルラベルの認知度 | 30.1%(令和2年1月) | 50.0% |
| ④ | 持続可能な消費行動を意識している市民の割合 | 62.5%(令和2年1月) | 75.0% |
③の「サステナブルラベル」の設問には、フェアトレードが例示として登場します。
あなたは、有機農産物、フェアトレードなど、持続可能な原材料調達や環境・社会的配慮につながる認証ラベルであるサステナブルラベルを知っていますか。
| 調査 | n | 回収率 | 知っている | 知らない |
|---|---|---|---|---|
| 令和4年4月実施 | 918 | 45.9% | 41.1% | 57.3% |
| 令和6年2月実施 | 789 | 39.5% | 42.7% | 56.1% |
ただし、これは「フェアトレード」単独の認知度ではありません。そして、認定(2025年3月)後に実施された市民意識調査は、まだ公開されていません。
5市の比較 — 鎌倉市には認知度を測る設問がない
| 名古屋市 | 浜松市 | 逗子市 | いなべ市 | 鎌倉市 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 人口 | 約232万人 | 約76万人 | 約5.5万人 | 約4.4万人 | 約17万人 |
| フェアトレードを知っている | 40.6% | 42.3% | 44.5% | 設問なし | 設問なし |
| 自分のまちがタウンだと知っている | 2.3% | 4.2% | 21.8% | 17.1%(「聞いたことはある」を含めると 44.2%) | 設問なし |
認知度は市ごとに設問が違うため、そのまま並べて比較することはできません。分母が違い、「知っている」の定義が違い、選択肢の切り方が違います。いなべ市が測っているのは「フェアトレードタウン」の認知度であり、「フェアトレード」そのものを聞いた設問は見当たりません。いなべ市の17.1%は「名前も内容も知っている」の値であり、「聞いたことはある」を含めると44.2%になります。設問がない市は「0%」ではなく「設問なし」と記しています。(詳細はナレッジ記事「市民の認知度をどう測るか — 3市のモデル設問と、比較の落とし穴」を参照。)
鎌倉市には、フェアトレードとフェアトレードタウンの認知度を測る設問がありません。「サステナブルラベル」の設問に例示として登場するだけです。
認定は2025年3月です。認定前の値を測っておく機会はもうありませんが、これから測れば、認定後の推移は追えます。逗子市が7年分、浜松市が5年分の目盛りを持っていることを考えると、次の市民意識調査に2問足すことの価値は大きいはずです。
課題
鎌倉市は認定から1年半で、まだ最初の更新(2028年)を迎えていません。したがって、他市のような「前回の目標に対する達成状況」の記録がありません。
認定時点で認定委員会が指摘した事項は、記録上ありません。すべての基準について「満たされているものと判断する」とされています。
そのうえで、公開情報から確認できる論点が2つあります。
1. 所管とKPIの位置づけが、認定の翌年に動いた。
| 令和7年度(2025) | 令和8年度(2026) | |
|---|---|---|
| 事業名 | エシカル消費推進事業(重点事業) | 消費生活事業 |
| 所管 | 共生共創部 地域共生課 | 市民防災部 市民安全課 |
| 施策区分 | ◎消費者対策 ○安心な消費生活の実現 | ◎暮らしの共創 ○防犯 |
| 事業費 | 1,340千円 | 685千円 |
| うちフェアトレード推進事業費補助金 | 600千円 | 90千円 |
補助金の減額は「実態に合わせた」ものであり縮小ではないと市は説明しています(前掲)。ただし、事業名から「エシカル消費」の語が消え、施策区分が「消費者対策」から「防犯」に移ったことは、位置づけの変化として記録しておく必要があります。
なお、鎌倉市は現在、令和8年度からの新しい総合計画を策定中です。新計画にフェアトレードがどう位置づけられるかは、次の更新審査(2028年)の重要な確認事項になります。
2. 三浦半島への広がりは、まだ確認できない。
鎌倉市の担当課は、逗子市との関係をこう語っています(2025年3月19日 総務常任委員会)。
逗子市と隣り合っているフェアトレードタウンというのは、全国でももうここだけですので、また、ほかの先行市も、様々イベントをつくりながら(中略)先行市の方々ともコミュニケーション取りながら、取組なんかは勉強しながら進めたいと思います。
同じ委員会で、竹田委員は逗子市の担当課と意見交換した内容を「非常にやっぱり対等な立場で共催という形でやっている」「世界フェアトレード月間に合わせて給食にフェアトレード食材を提供するとか」と報告しています。
一方、葉山町については、認定を目指す公式な動きを確認できませんでした。葉山町の公式ページ(2026年6月3日更新)は「2022年より『はやまエシカルアクション』としてエシカル消費を推進」とあるのみで、認定を目指す記載も鎌倉市・逗子市への言及もありません。
逗子市の磯野昌子氏がFTFJのプレスリリース(2025年11月)で「葉山町でも認定に向けた動きが始まっています」と述べていますが、葉山町側の公開情報では裏付けが取れていません。
出典
- 鎌倉市「フェアトレードタウンの取組」 https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/seikatu/fairtrade_town.html (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市 記者発表「フェアトレードタウンに認定されました」(2025年3月14日) https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kisya/data/2025/20250314.html (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市「フェアトレードタウン鎌倉ゼロ次会」 https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/seikatu/fairtrade_town0.html (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市「エシカル消費」 https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/seikatu/ethicalsyouhi.html (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市 予算事項別明細の内容説明 https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/zaisei/jikoubetsu.html (取得日 2026-08-27)
- 第3次鎌倉市総合計画 第4期基本計画 https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/keiki/4th-plan/4th-masterplan-top.html (取得日 2026-08-27)
- 同 実施計画 事業シート(6-4-1-1 エシカル消費推進事業) https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/keiki/4th-plan/documents/r76-4-1-1.pdf (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市 市民意識調査(令和6年2月実施) https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/keiki/documents/01r5tyousakekka.pdf (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市議会 会議録検索システム https://www.kensakusystem.jp/kamakura/ (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市 人口統計 https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/soumu/toukei/zinkou_kyu.html (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉エシカルラボ 公式サイト https://www.kamakura-ethical-lab.org/ (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「神奈川県鎌倉市」 https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/kamakura (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「鎌倉市をフェアトレードタウンとして認定」 https://fairtrade-forum-japan.org/archives/4139 (取得日 2026-08-27)
- タウンニュース鎌倉版「フェアトレードタウン認定 鎌倉市、国内で7番目」(2025年3月21日) https://www.townnews.co.jp/0602/2025/03/21/777705.html (取得日 2026-08-27)
- 国分グループ本社「鎌倉焙煎珈琲がソーシャルプロダクツ・アワード2025 大賞」(2025年3月7日) https://www.kokubu.co.jp/news/2025/detail/0307130000.html (取得日 2026-08-27)
- 三本珈琲 https://www.mmc-coffee.co.jp/8675/ (取得日 2026-08-27)
- 鎌倉市 記者発表「令和7年 観光客数」(2026年5月28日) https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kisya/data/2026/20260528.html (取得日 2026-08-27)
- 葉山町「フェアトレード」 https://www.town.hayama.lg.jp/soshiki/seisaku/HEA/fairtrade/16706.html (比較のため参照。取得日 2026-08-27)
【FTFJ編集部による解説】他地域への示唆
1. 認定は、隣のまちから伝わる。
鎌倉市がフェアトレードタウンを目指したきっかけは、隣接する逗子市の認定だった。市長自身がそう語っている。そして、その動機は「隣が取ったから」ではなく「市民発意でされている取り組みと聞き、素晴らしいと感じた」だった。
これは、認定制度の広がり方についての重要な記録である。日本のフェアトレードタウンは、熊本→名古屋→逗子→浜松→札幌→いなべ→鎌倉→大府と、地理的に飛び飛びに増えてきた。鎌倉市は、初めて「隣接自治体からの直接の波及」で生まれた例である。
含意は具体的だ。すでに認定されている地域は、自分の運動を隣の自治体の首長に見える形にしておくこと。逗子市の場合、それは三浦半島の首長懇談会という既存の場だった。新しい場をつくる必要はない。すでにある場で、市民発意の運動として説明できればよい。
2. 「行政は黒子」を、制度に翻訳した。
「行政は黒子」「市民の自主性を尊重する」という言い方は珍しくない。鎌倉市が違うのは、それを補助金の制度設計にまで落としたことである。
フェアトレード推進事業費補助金(令和5年度創設、補助率3分の1・上限20万円)は、国(消費者庁)の補助金を特定財源として、市が直接実施しない事業に充てている。担当課は「直接市が実施しない事業に充てるという前例(間接補助)がなかったため、理解を得るための苦労はあった」と語っている。
この設計の意味は2つある。
第一に、市の一般財源を増やさずに市民活動を支えられる。第二に、支援の判断が市民側にある。何をやるかを市が決めるのではなく、市民団体や事業者が企画したものに市が乗る。
そして実態は、市の想定より小さく、多かった。上限20万円で3件(60万円)を想定したところ、1万円前後の申請が7件来た。主に学童の子ども向け事業である。
この「小さくて多い」は、失敗ではない。壁画のような目に見える成果も、この補助金から生まれている。制度をつくって使わせてみると、地域が本当に必要としている規模が分かる。
これから認定を目指す地域への含意:市に「補助金をつくってほしい」と頼むとき、金額の大きさではなく、間接補助の前例をつくることを目標にすること。額は後から実態に合わせられる。
3. 議会が「支持する」から「広げる」へ踏み込んだ。
鎌倉市議会の決議は、他市と文言が違う。
浜松市・札幌市・逗子市の決議はいずれも「フェアトレードの理念を支持することを表明する」である。鎌倉市は議会自身を主語にして「広げていく」と書いた。
この差を生んだのは、SDGs議員連盟である。定数26名のうち20名が参加し、令和元年度(2019年度)の活動計画にすでに「フェアトレードタウン実施に寄与する決議の提出を見据えた活動」が位置づけられていた。推進組織の設立(2023年5月)より4年早い。
そして決議は会派提出ではなく、消費者行政を所管する総務常任委員会からの委員会提出だった。委員長が提案者、副委員長が起草。所管委員会が自分の所管事項として出している。
含意:議会への働きかけは、会派を回るだけではない。所管の常任委員会と、超党派の議員連盟という2つの経路がある。鎌倉市は後者を4年かけて育て、決議の2か月前(2024年8月)に議員研修会を開いて仕上げた。
4. 教育機関26カ所という数字は、認定の前からの蓄積である。
鎌倉市の基準3は、認定時点で企業7カ所・教育機関26カ所の合計33カ所。他市の認定時(浜松市10カ所、いなべ市4団体、札幌市4件)を大きく上回る。
だが、これは推進組織が2年で集めたものではない。現地調査で訪問したハリス記念鎌倉幼稚園は、2008年からバザーでパルシックやシャプラニールの製品を販売している。推進組織の設立より15年早い。かまくら富士商会の開業は2005年12月である。
鎌倉市には、フェアトレードの実践がすでに散らばっていた。推進組織はそれを可視化した。これは浜松市と同じ構造である。(浜松市は2005年からのイベント64回を申請書に書いた。)
含意:認定を目指すとき、最初にやるべきは新しい取り組みを始めることではなく、すでにある取り組みを数えることである。申請書の基準3・基準5は、たいていの地域で「探せば書ける」。
5. 認定してから測っても、遅くない。
鎌倉市には、フェアトレードとフェアトレードタウンの認知度を測る設問がない。市民意識調査の「サステナブルラベル」の設問に例示として登場するだけである。
認定前の値を測る機会はもう過ぎた。だが、逗子市が7年分、浜松市が5年分、名古屋市が2時点の目盛りを持っていることを考えると、鎌倉市がこれから測り始める価値は十分にある。
そして、鎌倉市は隣の逗子市の設問をそのまま借りられる。逗子市の3設問は市の公開報告書に載っており、7年分の推移もある。隣接する2市が同じ設問で測れば、それだけで日本のフェアトレードタウン研究の基礎データになる。
※ 文責: 内山大志