浜松市は2017年11月19日、日本で4番目のフェアトレードタウンに認定された。人口約80万人、楽器と輸送機器の産業都市であり、83か国・約2万人の外国人市民が暮らすまちである。
浜松市の事例は、先行する3市とはっきり違う点がひとつあった。運動が先にあり、推進組織が後からそれを束ねたことだ。
これは後知恵ではない。認定審査の過程で、FTFJの認定委員会自身がそう指摘している。2017年8月の書類審査で、委員会はこう書いた。
すべての事例で推進組織がイニシアチブを取って推進したものがないようにみえる。会員が相互に行ったものを収録している感じである。その点でこの浜松市の推進組織のケースは、熊本市、名古屋市、逗子市のケースと異なるようだ。
申請者はそれを否定しなかった。
フェアトレードの動きは推進団体をつくるまえから広く拡散的に発生していました。その個々が動いて実績をあげていた状況を、束ねていったのがはままつフェアトレードタウン・ネットワークといえます。
この構造がどこへ向かったかが、浜松市の事例の中身である。
答えは、2020年の更新審査報告書に書かれている。
初回認定時には明確な専門店が存在しなかったが、(中略)今回は「zakka+fairtrade晴天」がタウン認定をきっかけに専門店として開業しており、完全に基準を満たすこととなった。
そして2023年の更新申請時、その晴天のオーナーが推進組織の代表になっていた。
背景
浜松市のフェアトレードの動きは、推進組織の設立より10年以上さかのぼる。
申請書によれば、2004年頃から市内でフェアトレードを活性化する動きがあり、2008年5月に「第1回フェアトレードフェスタ」、2011年5月に「第2回フェアトレードフェスタ」が関係者によって開かれた。2015年4月、市民と浜松国際交流協会が「ハロー!はままつフェアトレードDAY 2016」をイオン浜松志都呂で開催することが決まり、動きが一段と活発になる。その過程で、2015年10月1日に「はままつフェアトレードタウン・ネットワーク」が結成された。
行政の側にも、それ以前からの土台があった。浜松市は2015年に、中学生向け冊子と一般向け冊子を発行している。推進組織ができる前に、市が教材を作っていたことになる。
そして2016年5月、市は「浜松市消費者教育推進計画」を策定した。これが浜松市のフェアトレードの制度上の出発点である。
認定への道筋は速い。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2015年10月 | はままつフェアトレードタウン・ネットワーク結成 |
| 2015年11月 | 浜松市と協働で「はままつフェアトレードマップ」の調査開始 |
| 2016年2月28〜29日 | 「ハロー!はままつフェアトレードDAY 2016」でマップを配布 |
| 2016年8月10日 | フェアトレード名古屋ネットワーク代表を招いて学習会 |
| 2016年10月4日 | 市議会 自由民主党浜松会派と研修会 |
| 2016年12月10日 | 「はままつエシカル会議2016」開催 |
| 2016年12月13日 | 市長に面談し、フェアトレードタウン化への協力を依頼 |
| 2017年1月20日 | 市議会 創造浜松会派と研修会 |
| 2017年4月16日 | 設立総会(天竜区クライネス・カフェ、出席13名)で趣意書・会則・役員を承認 |
| 2017年6月14日 | 市議会が「フェアトレードの理念に関する決議」を可決 |
| 2017年6月28日 | 鈴木康友市長が「フェアトレード浜松宣言」を発表 |
| 2017年7月7日 | FTFJへ認定申請 |
| 2017年11月19日 | フェアトレードタウン認定(日本で4番目) |
| 2018年2月1日 | 静岡文化芸術大学がフェアトレード大学に認定 |
市議会の決議は、8会派の共同提出である。自由民主党浜松、創造浜松、市民クラブ、公明党、日本共産党浜松市議団、浜松市政向上委員会、市民サポート浜松、Next浜松。会派研修会を2度重ねた成果が、この形に表れている。
決議文は、フェアトレードを国際協力として説明したうえで、こう続けている。
また、地産地消や、雇用機会の少ない障害者が扱う商品を購入することも、フェアトレードの理念とつながるものである。
地産地消と障害者就労を、フェアトレードと同じ枠に置いている。同じ文言が市長宣言にも現れ、基準4の連携事例の形をそのまま説明している。
※ 出典: 浜松市「フェアトレードタウンはままつについて」/FTFJ 静岡県浜松市ページ
主体
推進組織ははままつフェアトレードタウン・ネットワークである。
9年間で、組織の姿は入れ替わった。
| 認定時(2017年7月) | 2度目の更新時(2023年9月) | |
|---|---|---|
| 代表 | 杉山世子氏(株式会社豆乃木 代表取締役) | 三室千菜美氏(Fairtrade×Zakka 晴天 オーナー) |
| 事務局の所在地 | 静岡文化芸術大学 下澤研究室 | (現地調査も同研究室で実施) |
| 会員 | 20名 | コアメンバー(執行役員)9名+サポートメンバー |
| 賛助メンバー | 制度はあるが該当者なし | 同左 |
| 会議 | 定例ミーティング 月1回程度 | 理事会は不定期・Zoom、開催は20時以降 |
代表が交代しただけではない。2023年の現地調査で、直近に3名(会社員、大学教員、NPOスタッフ)が新たにコアメンバーに加わったことが確認されている。認定委員会はこれを「メンバーの多様化がすすみ、地域内のさまざまな分野やセクターからの参画が確認でき、フェアトレード支持層の拡大に有意義な動き」と評価した。
2023年時点でコアメンバーは9名。現地調査には6名が集まった。事業主が多いため、理事会は夜20時以降に開かれる。運営方針は認定前から変わっていない——「それぞれができることをやっていきましょう」である。
2020年の審査報告書は、この方針を次のように書き留めている。
それぞれの事業をしっかりやっていくことが結果的にはままつネットワークとしての成果に結びつくとの認識を理事が共有している。行政に頼らず自分たちで活動を広げていこうという浜松市の推進組織の特徴だろう。一方、結果として推進組織の会員増加にはつながっていないことが今後の課題として認識されている。
会員が増えないことは、この組織にとって想定内である。2023年の現地調査でも、賛助メンバーについては「メリットを提供しづらい」、フルメンバーについては「穏やかな組織運営を目指したいため、実際には大きな増加は求めていない」と述べられている。
現在の姿について、書けたことと書けなかったこと
代表者名は2023年時点まで一次資料で確認できました。現在(2026年)も同じ体制かは、公開情報では確認できません。
- 公式サイト(h-fairtrade.net)は掲載記事が2019年11月で止まっている
- 浜松市、FTFJのいずれのページにも代表者名の記載がない
- 法人番号・登記情報は確認できなかった。浜松市は「市民団体」と記載している
活動そのものは続いています。フェアトレードマーケット(2024年5月26日/2025年/2026年4月19日、いずれも佐鳴湖公園花見台)を主催し、市の答弁でも「事業者や大学教員などで組織する、はままつフェアトレードタウン・ネットワークのメンバーを講師に招き、くらしのセミナーなどにおいて講義していただいております」と言及されています。
※ 推進組織の設立日には3つの記載がある。2017年の申請書は「2015年10月1日」、設立総会議事録は「2017年4月16日」、2023年の審査報告書は「2017年4月14日」。 ※ 出典: 浜松市「フェアトレードタウンはままつについて」/はままつフェアトレードタウン・ネットワーク公式サイト(2026年8月27日取得)
取り組み
基準1 推進組織の設立と支持層の拡大
認定申請時、推進組織は定例ミーティングを月1回程度の頻度で開いていた。2016年7月から2017年6月までの1年間で11回、参加者は7〜18名。
議題の記録を読むと、この1年がほぼ認定申請の準備に費やされていることがわかる。市議会議員との交渉状況の共有、議案書ドラフトの検討、店舗数の再確認、会則の起草と確定、役員の決定。2017年4月16日の設立総会でも、代表から「当面の活動は、フェアトレードタウン申請準備を進めることとするが、申請が終了ののち、年間の活動計画を検討する」と説明され、全会一致で承認されている。
会則の「目的」には、フェアトレードという語が一度も出てこない。
国際社会・地域社会において、環境に過度の負担をかけず、安心安全で公正な商品の生産と流通を通して、誰もが参加できる社会づくりをめざす。
認定委員会はこれを審査で指摘した。申請者の回答は明確だった。
目的にはその文言がありませんが、活動の中には入れています。それは将来フェアトレードにとらわれず、広くエシカル消費運動への広がりを意識していたためです。
意図的な設計だったということである。
基準2 運動の展開と市民の啓発
2017年の申請書は、2005年から2017年までのイベント・キャンペーンを 64回、うちメディア報道31回 と集計している。他市の申請書が直近3年間を集計しているのに対し、浜松市は13年分をさかのぼって数えた。推進組織の設立(2015年10月)より前の10年分が、この表の3分の2を占める。運動が先にあったことは、この表がそのまま示している。
2度目の更新(2023年)では、直近3年間で37回、うちメディア報道29回。認定委員会は次のように評価している。
コロナ禍でイベント開催が大変困難であったにも関わらず、新規の取り組みもあり、一部オンライン開催を活用しつつ上記の開催回数を遂行している推進組織の努力は評価に値する
注目すべきは、報道の比率である。37回中29回、約8割がメディアに取り上げられている。認定時の64回中31回(約5割)から比率が上がった。
2017年11月19日には、認定と同じ日にフェアトレード全国フォーラム2017 in Hamamatsuが開かれた。主催は静岡文化芸術大学とはままつフェアトレードタウン・ネットワーク。2019年11月にも全国フォーラムが同じ主催で開かれている。
現在の定例事業はフェアトレードマーケット(毎年4〜5月、佐鳴湖公園花見台)と、市のくらしのセミナーへの講師派遣である。
※ 出典: FTFJ 静岡県浜松市ページ/浜松市「フェアトレードマーケット2026」ページ
基準3 地域社会への浸透
組織内でフェアトレード産品を利用・普及する地元組織は、認定時の10カ所から2020年に15カ所へ増えた。
2023年の現地調査で訪問した4カ所に、この市らしい特徴が出ている。
| 訪問先 | 確認された利用 |
|---|---|
| 静岡文化芸術大学 | 名刺にバナナペーパーを使用 |
| 浜松市 市民生活課くらしのセンター | 名刺にバナナペーパーを使用 |
| 株式会社G-HOME(吉宏園芸) | 社員休憩スペースでフェアトレードコーヒーを提供 |
| ビオ・あつみ エピスリー浜松店 | 来客用にフェアトレードコーヒーを提供 |
市の職員の名刺がフェアトレード産品でできている。しかも外注ではない。現地調査報告書は「市販のバナナペーパーに同センターのプリンターで印刷し、職員が各自でカッターで名刺大にカット」と記録している。
G-HOMEの事例は、推進組織の理事が自分の勤務先に持ち込んだものである。2022年末に社内でSDGsの取り組みを決め、理事が社員の福利厚生としてフェアトレードコーヒーの社内利用を提案した。従業員70〜80名の会社で、2か月に1キログラムを発注している。社員が学べるようパネルも設置されている。
これが「それぞれができることをやっていきましょう」の実際の姿である。
基準4 地域活性化への貢献
2017年の申請書が挙げた4つの事例は、いずれも「フェアトレード×福祉施設×地元素材」の商品開発だった。
| # | 連携 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 静岡文化芸術大学「りとるあーす」× 障害者就労支援事業所「いもねこ工房」 | フィリピン産マスコバド糖を使い、バターと牛乳の代わりにオリーブオイルと豆乳でスコーン風に。2016年2月のフェアトレードDAYで完売、その後も大学生協で定期販売 |
| 2 | 大学生の移動式カフェ「TAMARIBA Café」× 天竜浜名湖鉄道 天竜二俣駅 | 2016年7月18日の駅構内イベントで、天竜の水を使ったフェアトレードコーヒーを販売。以後毎月出展 |
| 3 | りとるあーす × 掛川市 福祉施設「まんま亭」× 任意団体「フェアコミ」 | 静岡県産素材とフェアトレード素材のクッキー。2013年5月発売。初年度は作業所売上の30%を占めた |
| 4 | とまり木珈琲 × 掛川市 福祉施設「さわや家」 | フェアトレード黒糖、袋井市産小麦粉、掛川市産塩を使った焼菓子。2016年4〜12月で約1,000個 |
4事例のうち3つに、大学の学生団体か福祉施設、あるいはその両方が入っている。市議会決議と市長宣言が「地産地消」「雇用機会の少ない障害者が扱う商品」をフェアトレードと同じ枠に置いたのは、この実態を写したものである。
一方で、認定委員会は同じ表を見てこう書いた。
(4-3)FTT推進組織の役割についての記述がない。推進組織がイニシアチブをとったケースがないようにみえる。(中略)「事務局機能」あるいは事務局長の役割が明確でない。
2023年の更新時、事例は4件から2件に減っている。
- 事例1 フィリピンのカカオでフェアトレードチョコを企業と大学で製作
- 事例2 地元企業といっしょにSDGs+フェアトレード・マーケットを開催
ただし認定委員会の評価は変わった。「2事例とも推進組織の執行役員が協力して広く関係組織・団体へ理解を求める活動を継続展開していることを現地調査によっても確認できた」として基準適合と判断している。件数は減ったが、推進組織の関与は明確になった。
基準5 地域の店等によるフェアトレード産品の幅広い提供
この基準の推移が、浜松市の9年間を最もよく表している。
| 認定時(2017年) | 1度目の更新(2020年) | 2度目の更新(2023年) | 目標 | |
|---|---|---|---|---|
| 人口 | 806,731人 | 789,675人 | 790,170人(令和5年9月1日) | — |
| 必要店舗数 | 81店 | 79店 | 79店 | — |
| 実績(カウント数) | 98.5店 | 116.5店 | 131.5店 | 160店(2026年度) |
認定から6年で3割増えている。
認定時の内訳は、2品目以上が49店(小売39・飲食8・小売兼飲食2)、1品目のみが99店。X+Y×0.5=98.5店だった。
そして、この基準には認定時に弱点があった。基準5は「フェアトレードについて説明でき、推進・普及活動を行っている推進店が1店以上あること」を求めている。2017年の申請書は専門店として株式会社豆乃木・JOEL・Sunshine Verdi Islandの3社を挙げたが、いずれも実店舗を持たない卸・出店販売の形態だった。
2020年の審査報告書は、当時の判断をこう振り返っている。
初回認定時には明確な専門店が存在しなかったが、はままつネットワークの理事等によるイベント出店やインターネット販売を中心にフェアトレード商品を扱う店舗などがそれを補完していると考え、認定に至った経緯がある。今回は「zakka+fairtrade晴天」がタウン認定をきっかけに専門店として開業しており、完全に基準を満たすこととなった。
認定が店を生んだ。そして2023年の更新申請時、その店のオーナーが推進組織の代表を務めていた。
審査の手続きも記録しておく価値がある。2020年・2023年とも、認定委員会は申告された商業施設の約20%を抽出して電話・現地で裏取りしている。2023年は26店舗で取り扱いを確認した。数字は自己申告ではなく、検証を経ている。
※ 出典: 浜松市「エシカル消費・フェアトレード」ページ(フェアトレードガイド) ※ 2023年の申請書は「2020年度は118点」と記載しているが、2020年の審査報告書は116.5店。→ 内部メモに記録
基準6 自治体によるフェアトレードの支持と普及
浜松市のフェアトレードは、国際協力でも環境でもなく、「消費者教育」として制度化されている。
市長宣言の書き出しが、それを明示している。
浜松市は、平成28年5月に消費者教育推進計画を策定し、「消費者市民社会の一員となる消費者の育成」を目標として掲げました。(中略)そして、市民との連携・協働のもと、フェアトレードなどのエシカル消費(倫理的消費)に関連する各種施策を推進してきました。
所管は市民部市民生活課 くらしのセンター(消費生活センター)。名古屋市が環境局、逗子市が市民協働課であるのに対し、浜松市は消費生活の窓口がフェアトレードを担っている。
認定委員会が「他の自治体の規範」と書いた6つの取り組み
2023年の現地調査報告書は、浜松市の行政の取り組みを異例の強さで評価している。
他のフェアトレードタウンと比較して大きく進んでいる点は、認定更新手数料の負担をはじめ、フェアトレードマップの作成において経費負担に加えて取り扱い店舗の調査までも同市の負担で実施されている。また、自治体職員にとって極めて煩雑な作業となる消費者庁の補助金取得にも取り組む自治体の熱意が説明から受け取ることができる点である。他の自治体の規範となる点と言える。
報告書が特記した内容は次のとおりである。
① 認定更新手数料を市が負担している。 FTFJに支払う認定更新手数料を、推進組織ではなく市が負担している。報告書は「逗子市をはじめ自治体負担が徐々に拡がりを見せてはいるものの、他自治体、特に今後タウン認定を目指す自治体においては事例と共に啓発していく必要がある」と書いている。
② 市役所の新規採用職員研修・フォローアップ研修でフェアトレードを扱っている。 講師はくらしのセンターの職員である。報告書は「さまざまな職場に配属される新規採用(職員)が、市の政策としてフェアトレードが推進されていることを意識する機会の提供は重要」と評価している。
③ 消費者教育教材が内閣府特命担当大臣賞を受賞している。 2022年5月、小中学校向けの消費者教育教材での受賞。報告書は「どのような大臣表彰でもその応募手続きは煩雑で、自治体職員の負担が極めて大きな作業となる。これに応募しようとする行政担当部局の熱意が感じ取れる」としている。
④ 啓発冊子を消費者庁の10分の10補助金で作成している。 「ぼくたち・私たちの消費行動が世界を変える! 学ぼう 広げよう フェアトレード」。10分の10補助はゼロ精算(収支が同額であること)が求められ、収支報告書の作成が極めて煩雑になる。
⑤ フェアトレードマップの店舗調査を、市の負担で実施している。 経費負担にとどまらず、調査の担い手が特殊である。広い市域に点在する取扱店を調べるのは浜松市消費者団体と、それに協力する学生である。経費は「消費者問題意識啓発事業委託料」の一部として消費者団体へ支出されている。報告書は「この手法も新たな発見であり、他自治体の参考事例としても秀逸である」と書いている。
⑥ 学校給食でフェアトレード食材を使っている。 2018年度に引佐学校給食センター管内の学校で始まり、2022年度から一部の自校方式校へ広がった。2025年度は給食センター方式6校・自校方式53校の計59校、8年間の累計は延べ285校である(2025年12月・市議会答弁)。
課題も議会で説明されている。「価格が高いこと、給食に適した商品が少ないこと、大量調理用の商品サイズが整っていないこと、納入業者が限られていること」。市内の小・中学校143校のうち、実施は半数以下にとどまる。
そのほかの市の取り組み
出前講座 — くらしのセンターが市内の小中学校で年間40回程度実施。2023年度は小学校32校1,919人、中学校2校145人の計2,064人。フェアトレード大学である静岡文化芸術大学と連携した出前講座も行われている。
教材 — 2015年発行の中学生向け・一般向け冊子に加え、小学生向けポスター、発達支援学級向け教材。
店舗用ステッカー — 2020年度に作成。
予算 — 公開資料からは分離できない
フェアトレード単独の予算額は、市の公開資料からは分離できない。「フェアトレード」という語を含む事業名が予算書に存在しないためである。関連経費は消費生活推進事業に含まれる。
| 年度 | 消費生活推進事業 |
|---|---|
| 令和6年度(2024) | 7,324千円 |
| 令和7年度(2025) | 7,827千円 |
| 令和8年度(2026) | 7,158千円 |
ただし、内訳のデータは存在する。2023年の現地調査で、くらしのセンター所長から令和3〜5年度の予算内訳が現地調査団に手渡されている。報告書はこれを「対面による現地調査の成果とも言える」と記している。記事では金額を書いていません。非公開の内部資料として提供されたものだからです。
市長の施政方針には、令和6・7・8年度のいずれも「フェアトレード」の言及がない。
市長と議会
2023年5月に市長が交代している。鈴木康友市長(2017年の宣言者)から中野祐介市長へ。2023年9月の現地調査では、新市長にオンラインで改めて支持の考え方が聴取された。市長からは「SDGs未来都市として、SDGs推進の中でフェアトレードを支持・推進していること、今後静岡県市長会などで、フェアトレードタウンの意義を発信していきたい」との発言があった。
議会 — 会議録検索システムで「フェアトレード」を全文検索すると全期間で78件。2017年18件、2018年15件、2019年14件と認定前後に集中し、2022年は0件、2023年6件、2024年5件、2025年7件、2026年は0件である。
2023年の現地調査では、須藤京子副議長(当時)に聞き取りが行われている。「現在は、副議長という立場から本会議において発言することは控えているが、フェアトレードを支持する考えは変わらない」「コロナ禍で開催できなかった議員研修を再開し、フェアトレードに関する議員研修を開催したい」との発言が記録されている。同氏は2025年12月、副議長を退いたのち一般質問でフェアトレードを取り上げている。
その質問で、次の指摘があった。
登録更新の際に課題となるのが庁舎内でのフェアトレード産品の販売(中略)本庁舎内で販売する機会を検討していただくよう要望
庁舎でのフェアトレード産品の提供は、公開情報では確認できなかった。名古屋市が2019年から市庁舎食堂でフェアトレードコーヒーを提供し、逗子市が市役所1階の売店で販売しているのとは異なる。
多文化共生との接続
推進組織の設立趣意書は、浜松市を「83か国、約2万人の外国人市民」が暮らすまちとして描き、「多様性に富んだ浜松市において、互いを思いやり、さらには海を越えた人たちを思いやる地域づくり」を掲げている。浜松国際交流協会(HICE)が運営する多文化共生ポータルサイトには「フェアトレード活動支援」のページが常設されている。
2025年2月策定の「第3次浜松市国際戦略プラン」に、「市民団体・大学等と連携したフェアトレードなどのエシカル消費の普及・啓発推進」が明記された。2024年11月の総務委員会で議員が「これまで国際課の戦略の中にフェアトレードタウンという言葉をあまり見かけなかった」と述べており、国際部門の計画に明記されたのは今回が初めてとみられる。
※ 出典: 浜松市 令和6・7・8年度「予算に関する説明書(一般会計)」/同 施政方針/浜松市議会 会議録検索システム/第3次浜松市国際戦略プラン/HAMAPO「フェアトレード活動支援」
成果
| 指標 | 認定時(2017年) | 1度目の更新(2020年) | 2度目の更新(2023年) |
|---|---|---|---|
| 人口 | 806,731人 | 789,675人 | 790,170人 |
| 基準5の必要店舗数 | 81店 | 79店 | 79店 |
| 商業施設数(カウント数) | 98.5店 | 116.5店 | 131.5店 |
| 産品を利用・普及する地元組織 | 10カ所 | 15カ所 | (総数は未確認) |
| イベント・キャンペーン | 64回(2005〜2017累計) | — | 37回(直近3年) |
| うちメディア報道 | 31回 | — | 29回 |
| 推進組織のコアメンバー | 会員20名 | — | 9名 |
| フェアトレード専門店 | 実質なし | 1店(晴天が開業) | 同左 |
直近の数字は次のとおりである(すべて公開情報)。
| 指標 | 直近 |
|---|---|
| 人口 | 761,191人(2026年7月1日) |
| フェアトレード給食 実施校 | 59校(2025年度)/8年累計 延べ285校 |
| 出前講座 | 年間40回程度 |
| 市民の認知度(フェアトレード) | 42.3%(2025年度) |
| 市民の認知度(自分のまちがタウンであること) | 4.2%(2025年度) |
認知度 — 浜松市は毎年測っている
浜松市は1970年度から毎年「市民アンケート調査」を実施しており、そのなかにフェアトレードの設問が2つ置かれている。
第52回(2025年度)調査:2025年7月31日〜8月25日実施/満18歳以上の市民3,000人を住民基本台帳から無作為抽出/質問紙郵送・郵送およびWeb回答併用/有効回収1,623人(郵送1,193・Web430)・回答率54.1%/委託 株式会社東京商工リサーチ
問15 あなたは、「フェアトレード」をご存じですか。また、フェアトレード商品を買ったことがありますか。(全回答者 n=1,623)
| 選択肢 | 割合 |
|---|---|
| 名称または内容を知っており、フェアトレード商品を買ったことがある | 20.7% |
| 名称または内容を知っているが、フェアトレード商品を買ったことがない | 21.6% |
| 『知っている』計 | 42.3% |
| 知らない | 56.3% |
| 無回答 | 1.4% |
年代別では18〜29歳が59.8%と最も高く、70歳以上が27.3%と最も低い。職業別では学生が86.7%で最も高い。
問16 あなたは、浜松市が「フェアトレードタウン」であることをご存じですか。(全回答者 n=1,623)
| 選択肢 | 割合 |
|---|---|
| 知っている | 4.2% |
| 知らない | 94.7% |
| 無回答 | 1.1% |
経年推移(読み方に注意が必要です)
| 調査年度 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|---|---|
| フェアトレードを知っている | 44.5% | 44.5% | 39.7% | 44.5% | 42.3% |
| 浜松市がタウンであることを知っている | 18.3% | 18.0% | 15.6% | 5.5% | 4.2% |
タウン認知度が2023年度の15.6%から2024年度の5.5%へ急落しているのは、実態の変化ではなく設問形式の変更によるものです。報告書自身が注記しています。2023年度までは「名称や内容も知っている」「名称だけは知っている」の2択で、2024年度からは「知っている」の単一選択に変わりました。2023年度以前と2024年度以降を、そのまま並べて比較しないでください。
KPI — あった。そしてなくなった
浜松市は、フェアトレードの認知度を市の計画のKPIに置いていた時期がある。
浜松市戦略計画2024 の「持続可能で多様性のある社会の実現」に、次の指標があった。
②:フェアトレードに関する認知度 【%】 基準値 44.1(2018年度) 計画値 2020年度 53.3/2021年度 56.6/2022年度 60.0/2023年度 60.0/2024年度 目標値 60.0 実績値 2020年度 30.2/2021年度 44.5/2022年度 44.5/2023年度 39.7
この目標値は、途中で下方修正されている。戦略計画2020 では2023年度70.0%、2024年度80.0%だった。それが60.0%に引き下げられた。
戦略計画2024評価レポート の最終評価は、目標60.0に対して実績44.5、達成率74%、施策評価ランクBである。
2025年度から始まった新しい総合計画の基本計画・実施計画に、フェアトレードの指標はない。「長期成果(アウトカム)指標一覧」にも存在しない。2025年度実施計画評価レポートには定性的な記述が残るのみである。
浜松市消費者教育推進計画に基づき(中略)特にエシカル消費の普及に注力し、中でもフェアトレードタウンとして今後もフェアトレードの普及を進めていく。
そして、2026年4月に発行された「第三次浜松市消費者教育推進計画」(令和8〜12年度)には、数値目標が設定されていない。現状値(フェアトレード認知度42.3%、フェアトレードタウン認知度4.2%)が掲載されているだけである。
同計画の課題分析はこうである。
若年層は、SNSや学校の授業を通じ、「フェアトレード」を学ぶ機会が多い一方で、高齢者はテレビや新聞といったメディアの利用が高く、そこにはフェアトレード情報の露出が少ない 「フェアトレードタウン」は抽象的な概念で、日常生活との関わりが分かりづらい
現在、浜松市のフェアトレード施策に数値目標は存在しない。
※ 出典: 浜松市「市民アンケート調査」第52回(令和7年度)報告書/浜松市戦略計画2020・2024/戦略計画2024評価レポート/2025年度実施計画・評価レポート/第三次浜松市消費者教育推進計画 ※ すべて公開資料。PDFの該当ページを直接確認済み(2026年8月27日)。 ※ 2023年の現地調査で、くらしのセンター所長から「市の戦略目標として市民のフェアトレード認知度60%(2020年の消費生活アンケートでは46.8%)を目指す」との情報が示されている。この46.8%は市民アンケート調査の系列(2020年度30.2%)とは別の調査とみられる。混同を避けるため、記事では公開資料の系列のみを用いた。 ※ なお、市の「浜松市SDGs未来都市計画(2021〜2024)」全文に「フェアトレード」の記載はない。
3市の比較 — タウン認知度は、まちの大きさに反比例する
FTRCではここまで、認知度を継続的に測っている3市の事例を扱った。同じ2025年(令和7年度)の調査で、3市を並べることができる。
| 名古屋市 | 浜松市 | 逗子市 | |
|---|---|---|---|
| 人口 | 約232万人 | 約76万人 | 約5.5万人 |
| 有効回収 | 908人(45.4%) | 1,623人(54.1%) | 702人(46.9%) |
| フェアトレードを知っている | 40.6%(言葉も意味も) | 42.3%(『知っている』計) | 44.5%(総合計画KPIの値) |
| 自分のまちがタウンだと知っている | 2.3% | 4.2% | 21.8%(試算) |
| その設問を聞いた相手 | 全回答者 | 全回答者 | フェアトレードを知っている人 |
フェアトレードそのものの認知度は、3市とも4割台でほとんど差がない。(ただし設問の切り方が異なるため、厳密な比較ではありません。)
一方、「自分のまちがフェアトレードタウンである」という認知度は、人口が小さいほど高い。232万人の名古屋市で2.3%、76万人の浜松市で4.2%、5.5万人の逗子市で約21.8%。きれいに反比例している。
逗子市の21.8%は本記事による試算です。逗子市はタウン認定の設問をフェアトレードを知っている人(471/702人=67.1%)にだけ聞いているため、全回答者ベースに換算しました(32.5% × 67.1% = 21.8%)。「フェアトレードを知らない人はタウン認定も知らない」という前提を置いています。
課題
推進組織が2度目の更新申請で掲げた目標は、次のとおりである。前回(2020年)に掲げた目標と並べると、何が変わったかが見える。
| 基準 | 1度目の更新時(2020年)の目標 | 2度目の更新時(2023年)の目標 |
|---|---|---|
| 1 推進組織 | 実行性の高いメンバーで組織を固めたのち、徐々に一般市民メンバーや応援団を増やす | コアメンバーと連携し、学生メンバー、賛同する企業・個人メンバーを増やす。可能な限り対面で会う機会を設ける |
| 2 啓発 | 学びの場づくり/手軽に買えるオリジナル商品の開発/地元企業との連携 | 市民向け講座・映画上映会・企業担当者のお話し会/オリジナル商品の開発を引き続き/フェアトレード月間のイベント |
| 3 浸透 | オリジナル商品の普及/マップ第4版を市と作成 | マップ第5版の作成/オリジナル商品の販路づくり |
| 4 地域活性化 | エコ・地産地消とのタイアップ/福祉団体との連携/学校との連携 | 学校機関との連携、出前授業・給食の推進/エシカル商品を扱う市内事業者との連携 |
| 5 店舗 | 継続のお願い/大型チェーンとの対話/ステッカー配布/2023年に130点 | 同左/2026年度に160店舗 |
| 6 自治体 | マップ・教材の開発/給食の学校数を増やす/ステッカー配布拡大/協働事業/拠点づくりの提案 | マップ第5版/給食の導入学校数を増やす/出前講座の積極実施 |
| その他 | 国内フェアトレード企画を浜松から始めたい | 紹介媒体を増やしたい(動画サイト、フリーペーパー)/フェアトレードキッチン・カフェの開催 |
目標の性格が変わっている。2020年は「拠点づくり」「国内フェアトレード企画」といった構想が並んでいたが、2023年は「マップ第5版」「給食の学校数」「160店舗」と、実行可能な数字に寄っている。
そして「その他」に、注目すべき項目が入った。
当ネットワークの紹介媒体を増やしたい。動画サイト、フリーペーパー作成などにトライし、タウンの活動やフェアトレード普及活動に役立てたい。タウンのメンバーそれぞれの個性、特技を活かし、発信力を高めて行ければと思う。
推進組織自身が、発信の弱さを課題として自覚している。認定委員会もこれを「年齢層や所属組織に応じて、周知対象ごとに紹介媒体を選択していくことを確認し、重点目標となりうると判断した」としている。公式サイトが2019年で止まっていることと、この目標は同じ問題を指している。
2度目の更新で重点目標とされたのは3つ。基準5(160店舗)、基準6(自治体との関係強化を基準5の達成で示す)、そして発信媒体の拡大である。
現地調査団は、基準6についてこう提案している。
現地調査団から自治体の積極的支援は希有であり、自治体との関係強化・継続を基準5の目標達成による成果で示すことを提案し、重点目標とされた
市がここまでやっているのだから、店舗数で応えなさい、ということである。
出典
- 浜松市「フェアトレードタウンはままつについて」 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kurashi/fairtradetownhamamatsu.html (取得日 2026-08-27)
- 浜松市「エシカル消費・フェアトレード」 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kurashi/ethical.html (取得日 2026-08-27)
- 浜松市「第三次浜松市消費者教育推進計画」 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kurashi/shouhishakyouiku/suishin-keikaku.html 本文PDF https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/55345/02keikakur8-12.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市「市民アンケート調査」 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/koho2/politics/simin_tyosa/index.html 第52回(令和7年度)報告書PDF https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/171247/r7chousahoukoku.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市戦略計画2024 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/166652/sennryakukeikaku202407.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市戦略計画2020 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/166652/senryaku2020.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市戦略計画2024 評価レポート https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/166652/senryakuhyouka2024.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市 2025年度実施計画 評価レポート https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/173577/2507hyouka.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市 令和8年度「予算に関する説明書(一般会計)」 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/171794/22_setumeisho08.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市 令和7年度「予算に関する説明書(一般会計)」 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/164874/l_yosansetsumeisho.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市 施政方針(令和6・7・8年度) https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kikaku/shiseihoushin/index.html (取得日 2026-08-27)
- 浜松市議会 会議録検索システム https://ssp.kaigiroku.net/tenant/hamamatsu/SpTop.html (取得日 2026-08-27)
- 第3次浜松市国際戦略プラン(解説編) https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/169635/dai3ji-senryaku-plan-kaisetsu.pdf (取得日 2026-08-27)
- 浜松市 推計人口表 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/gyousei/library/1_jinkou-setai/006_suikeijinkou.html (取得日 2026-08-27)
- はままつフェアトレードタウン・ネットワーク http://h-fairtrade.net/ (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「静岡県浜松市」 https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/hamamatsu (取得日 2026-08-27)
- 日本フェアトレード・フォーラム「静岡文化芸術大学」 https://fairtrade-forum-japan.org/universityactivity/details/suac (取得日 2026-08-27)
- 静岡文化芸術大学「フェアトレード大学の取組み」 https://www.suac.ac.jp/about/community/fairtrade/ (取得日 2026-08-27)
- HAMAPO(浜松国際交流協会)「フェアトレード活動支援」 https://www.hi-hice.jp/ja/international-culture/fairtrade-support/ (取得日 2026-08-27)
- 浜松市「フェアトレードマーケット2026」 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kurashi/fairtrademarket.html (取得日 2026-08-27)
- 名古屋市「令和7年度環境対策に関する市民アンケート報告書」 https://www.city.nagoya.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/873/r7siminnannketohoukokusho.pdf (比較のため参照。取得日 2026-08-27)
- 逗子市「逗子のまちづくりに関するアンケート調査」令和7年度集計結果 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/454/r7result.pdf (比較のため参照。取得日 2026-08-27)
【FTFJ編集部による解説】他地域への示唆
1. 認定は、認定基準を満たす担い手を後から生むことがある。
浜松市は認定時、基準5の「推進店1店以上」を厳密には満たしていなかった。専門店として挙げられた3社はいずれも実店舗を持たず、認定委員会は「理事等によるイベント出店やインターネット販売がそれを補完している」と判断して認定した。
その3年後、「zakka+fairtrade晴天」がタウン認定をきっかけに開業した。そしてさらに3年後、その店のオーナーが推進組織の代表になっていた。
認定は、達成の証明であると同時に、達成を引き起こす装置でもある。「基準を完全に満たしてから申請する」という考え方だけでは、この順序は起こらない。
同時に、これは審査する側への問いでもある。満たしきっていない基準を、どこまで「将来の達成が見込める」として認めるか。浜松市の場合は結果として正しかった。だが、この判断は毎回正しいとは限らない。判断の根拠を記録に残しておくことが、次の判断の材料になる。
2. フェアトレードをどの部局が担うかで、届く相手が決まる。
熊本市、名古屋市(環境局)、逗子市(市民協働課)に対し、浜松市は消費生活の窓口(くらしのセンター)が担っている。出発点が2016年の消費者教育推進計画だからである。
その結果、浜松市の施策は消費者教育の道具立てでできている。出前講座(年40回)、教材(内閣府特命担当大臣賞を受賞)、学校給食(延べ285校)、店舗用ステッカー、取扱店ガイド、新規採用職員研修。すべて「消費者を育てる」形をしている。
強さははっきり出ている。18〜29歳のフェアトレード認知度は59.8%、学生は86.7%。若年層への到達は3市のなかで際立っている。
弱さも同じところから出ている。70歳以上は27.3%。市自身が「高齢者にはフェアトレード情報の露出が少ない」と分析している。消費者教育の主な現場は学校だからである。
認定を目指す地域は、どの部局と組むかを決める前に、誰に届けたいかを決めるべきだ。
3. 「行政がここまでやる」ことには、模範と依存の両面がある。
2023年の現地調査報告書は、浜松市の行政を「他の自治体の規範」と評価した。認定更新手数料の負担、マップの経費と店舗調査、消費者庁の10分の10補助金、新規採用職員研修、大臣賞への応募。いずれも自治体職員の手間が大きく、熱意がなければ続かない仕事である。
同じことを、推進組織の側から見るとどうか。推進組織は「それぞれができることをやっていきましょう」を9年間変えず、会員数の増加を目標にしていない。賛助メンバーは制度としてあるが該当者はゼロ。公式サイトは2019年で更新が止まっている。
これは怠慢ではない。イベントは3年で37回、うち29回が報道されている。店舗数は6年で3割増えた。理事は自分の勤務先や自分の店にフェアトレードを持ち込んでいる。組織として大きくならないことを選んだうえで、個々が動いている。
問題は、この構造が個人に依存していることだ。現地調査報告書が繰り返し「熱意」という語を使っているのは偶然ではない。市の側でも推進組織の側でも、担い手が替わったときに何が残るかは、制度ではなく引き継ぎの問題になる。
そして実際、KPIは消えた。戦略計画にあった「フェアトレードに関する認知度」は、2025年度からの新しい総合計画に入らなかった。新しい消費者教育推進計画にも数値目標がない。熱意で走ってきたものは、熱意が移ったときに止まりうる。
これから認定を目指す地域への含意は、こうだ。行政の熱意はありがたく受け取るべきだが、同時にそれを計画の文言と指標に翻訳しておくこと。逗子市がKPIを持ち続けているのと、浜松市が失ったのは、熱意の差ではなく、書き残し方の差である。
4. 人口が減る都市では、基準5は自動的に楽になる。
浜松市の人口は認定時の806,731人から761,191人へ、9年で5.6%減った。基準5の必要店舗数は人口1万人あたり1店なので、81店から77店へ、4店ぶん下がっている。
浜松市の場合、実績は98.5店→116.5店→131.5店と着実に伸びており、緩和に助けられてはいない。だが人口減少地域では、店舗数の基準は年々自動的に緩くなることを、審査する側もされる側も意識しておくべきだ。
フェアトレードタウンの認定基準は、人口が増えることを前提に設計されている。日本の多くの自治体では、その前提はもう成り立っていない。認定制度そのものの論点として、記録しておく。
※ 文責: 内山大志