01フェアトレードタウン

熊本県熊本市 — アジア初のフェアトレードシティが、15年かけて担い手を組み替えるまで

基本データ

自治体
熊本県熊本市
所在
熊本県
人口(現在)
730,185人(2025年2月1日現在)
認定日
2011年6月4日
更新認定
2013年5月23日
2019年4月11日
2022年8月23日
2025年8月25日
認定順
タウン 1 件目
推進組織
フェアトレードシティくまもと協議会
担当部署
熊本市政策局総合政策部国際課(協議会の事務局を兼ねる)
計画への位置づけ
施策として位置づけ

熊本市は2011年6月4日、アジアで初めてのフェアトレードタウンに認定された。それから15年、熊本市が向き合ってきたのは、この運動を一部の熱意ある人たちの努力で終わらせず、まちに根づいた市民の営みとして続けていくにはどうすればよいか、という問いである。2024年に発足した11団体の協議会は、その模索のひとつの到達点にあたる。

※ 出典: 熊本市公式サイト「フェアトレードシティくまもと」/日本フェアトレード・フォーラム 熊本県熊本市ページ

背景

熊本市のフェアトレードの動きは、認定のはるか前から始まっている。日本フェアトレード・フォーラムの公開情報によれば、2000年のNGO「フェアトレードくまもと」の設立から認定まで11年を要した。市議会は2010年に「フェアトレード理念周知に関する決議」を全会一致で採択し、翌2011年6月4日、熊本市はアジア初・日本初のフェアトレードタウン(世界で1000番目)として認定された。2014年には第8回フェアトレードタウン国際会議が熊本で開かれている。

市内では1993年からフェアトレード専門ショップ「ラブランドエンジェル」が営業を続けており、この店を営む明石祥子氏が、後にフェアトレードシティくまもと推進委員会の代表を務めることになる。

※ 出典: 熊本市公式サイト「フェアトレードシティくまもと」/日本フェアトレード・フォーラム 熊本県熊本市ページ/LOVE LAND-angel- 公式サイト

主体

現在の推進組織は「フェアトレードシティくまもと協議会」である。2024年3月22日に設立され、2025年3月1日時点の構成員は11団体。行政・大学・NPO・企業・経済団体・金融機関・福祉団体・メディア・国際交流団体が並ぶ。会長は小野友道氏。副会長は熊本大学人文社会科学研究部の教授が務める。

規約では、目的を「各種団体が取り組むフェアトレードの普及啓発等の活動の情報を交換し、又は共有することにより、幅広い分野での連携を促進する」ことと定め、活動の種類のひとつに「ローカルフェアトレードの推進に関すること」を明記している。事務局は熊本市政策局総合政策部国際課に置かれる。2024年8月には規約を改正し、認定更新部会を設置した。

この形になるまでに、申請主体は三度替わっている。初回認定から2019年更新までは任意団体のフェアトレードシティくまもと推進委員会、2022年更新はNPO法人くまもと未来ネット、そして2025年更新が協議会である。特定の団体に負担が集中する体制から、多様なステークホルダーが分担する体制への移行を意図したものと、申請書には記されている。

※ 副会長・その他の構成員は、氏名が公開情報で確認できなかったため役職・所属のみとした。 ※ 熊本市公式サイトが公開しているのは11の「団体名」のみで、氏名は掲載されていない。 ※ 出典: 熊本市公式サイト「フェアトレードシティくまもと」/日本フェアトレード・フォーラム「熊本市をフェアトレードタウンとして4度目の更新認定」(2025年8月25日)

取り組み

基準1 推進組織の設立と支持層の拡大

協議会は設立から2025年3月までに3回の会議を開いている(2024年3月22日の設立総会兼第1回、2024年8月27日の第2回、2025年3月14日の第3回)。第2回で構成員の変更と部会設置に関する規約改正を行い、認定更新部会を置いた。会費は構成員・賛助会員の制度として整備が進められている。

基準2 運動の展開と市民の啓発

2022年から2024年の3年間で、推進イベント・キャンペーンは69回、うち熊本日日新聞に掲載された報道は17回。前回更新申請時(2019〜2021年の3年間)は50回・報道13回であり、いずれも増加している。

年次のマルシェは市民啓発の中心にある。2025年11月16日には第10回くまもとフェアトレードマルシェが熊日会館びぷれス広場(熊本市中央区上通町2番)で開かれた。主催は熊本市と一般財団法人熊本市国際交流振興事業団。

2023年2月11日には、友好都市であるドイツ・ハイデルベルク市(2010年にフェアトレードシティ認定)との締結30周年記念事業として、「フェアトレードシティとして実践するSDGs」をテーマにシンポジウムが開かれ、熊本市長とハイデルベルク市長が基調講演を行った。

2026年5月16日には、フェアトレードシティくまもと15周年記念事業として、熊本市国際交流会館でシンポジウムとフェアトレードショップ、ワークショップ等が開催された。その翌日の5月17日には、明石祥子氏が熊本市中央区新屋敷にフェアトレードの体験ミュージアムを開設している。長く専門店を営んできた場所を、常設の学びの拠点へと組み替えたものである。

基準3 地域社会への浸透

組織内でフェアトレード産品を利用・普及している地元組織は37カ所(前回更新時34カ所、認定時19カ所)。内訳は企業18、教育機関1、医療機関2、地縁組織1、労働組合1、宗教団体3、NPO・NGO 2、その他9である。

特筆される取り組みとして、熊本学園大学を拠点とするNPO法人東アジア共生文化センターがある。2009年設立。2010年からネパールおよびラオスのコーヒー村から生豆を輸入して焙煎・販売を始め、学内売店・コンビニエンスストア・生協・熊本国際交流会館などで販売してきた。2014年からは学生が運営する「フェアトレードカフェ・フェリーチェ」を支援し、2022年にはネパール・ラオス・スリランカの豆をブレンドした「WITHコーヒー」を開発してWFTO認証を取得している。2024年には農業技能実習生による農産物のマルシェ「ローカルフェアトレードマルシェ」を開催した。

基準4 地域活性化への貢献

熊本県立熊本農業高校「美豚そぉぷ」 — 畜産科は2017年から「養豚プロジェクト」に取り組み、食品廃棄物由来の飼料「エコフィード」による養豚でゼロエミッションを目指してきた。副産物である豚脂を使った洗濯用石けんを4年がかりで開発し2021年に商品化。その後、推進委員会の勉強会への参加をきっかけに、フェアトレード認証を受けたスリランカ産ココナッツオイルと豚脂を配合した美容用石けん「美豚そぉぷ」を開発し、2023年から販売を開始した。

オークラ製菓株式会社によるキャンディ開発 — 認定10周年を記念して推進委員会が企画し、同社に提案。国際フェアトレードラベル機構が認証した西アフリカ産カカオとフィリピン産黒糖を原料に、チョコレート味と黒糖味のキャンディが作られた。パッケージデザインは高校生と共同で行われている。 ※ 現在の製造・販売状況は本記事の一次資料では確認できていないため、記載しない(社内判断:2026年8月27日)。

大江校区社会福祉協議会 — 2016年から、同社協が開催する健康体操・高齢者懇談会・研修会などでフェアトレードコーヒーの使用を開始。2023年4月の地域コミュニティセンター開設以降は、週1回のミニデイサービスや地域行事で継続的に使われている。2024年4月からは毎週土曜日の「コミュニティカフェ愛らんど」で東アジア共生文化センターが開発したフェアトレードコーヒーを提供し、来場者にパンフレットを配布している。

フェアトレード修学旅行の受け入れ — 2024年11月10日から12日の3日間、推進委員会が日本旅行と連携し、東京都府中市の明星高校の修学旅行を受け入れた。行程には、熊本農業高校・肥後銀行・国際交流振興事業団・熊本市との連携によるマルシェ視察、市議会議場の視察と市議会議員による発表、大学教授による講演、市のフェアトレードイベントへの参画(副市長出席)が組み込まれた。

基準5 地域の店等によるフェアトレード産品の幅広い提供

フェアトレード産品を提供する商業施設は、2品目以上が56店、1品目のみが88店で、基準の数え方(2品目以上を1店、1品目のみを0.5店)では100店にあたる。前回更新申請時は同じ数え方で85店だった。市の国際課が発行するフェアトレードマップには81店舗が掲載されている。

推進組織が「適切と認めるフェアトレード団体」は5団体。日本フェアトレード委員会、フェアトレードシティくまもと推進委員会、NPO法人くまもと未来ネット、熊本学園大学NPO法人東アジア共生文化センター、株式会社タカダペーパープロダクツ(バナナの皮を原料とするバナナペーパー)である。

公共施設では、熊本市国際交流会館1階の「リンクカフェ」が常設でフェアトレード産品を販売し、フェアトレードの説明を掲示している。2022年からは同会館にフェアトレードコーヒーの自動販売機が設置されている。

基準6 自治体によるフェアトレードの支持と普及

熊本市議会は2010年に「フェアトレード理念周知に関する決議」を全会一致で採択した。その後も議会での言及は続いており、2022年2月25日の第1回定例会代表質問、2024年9月9日の第3回定例会一般質問でフェアトレードが取り上げられている(熊本市議会会議録検索システムで確認可能)。

予算面では、市が毎年度の当初予算に「フェアトレードシティ推進経費」を継続して計上している。2022年度から2024年度は3年間とも同額が確保され、ハイデルベルク市との友好都市30周年記念事業に合わせたフェアトレードフェア、フェアトレードマップの作成、修学旅行受け入れに係る基調講演、マルシェやセミナー・ワークショップ等の普及啓発イベント、ノベルティ製作などに使われてきた。 ※ 金額は記載しない(推進組織・熊本市国際課の了解が未取得のため。社内判断:2026年8月27日)。 ※ なお令和8年度当初予算(案)要求状況一覧には「フェアトレードシティ推進経費 2,000千円」が公開されている。 ※ 掲載するかどうかは

2024年の協議会設立にあわせ、事務局が市の国際課に置かれた。民間団体が担ってきた実務を行政が引き受ける形である。

成果

公開情報および認定更新資料で確認できた変化は、次のとおりである。

指標 認定時 前回更新時 2025年更新時
商業施設数(基準5の数え方) — 85店 100店
産品を利用・普及する地元組織 19カ所 34カ所 37カ所
推進イベント・キャンペーン(3年計) — 50回 69回
うちメディア報道(3年計) — 13回 17回
申請主体 推進委員会 NPO法人くまもと未来ネット 11団体の協議会

市民のフェアトレード認知度についても、熊本市が公表している調査がある。令和7年度熊本市総合計画市民アンケートでは、「フェアトレードを知っている」と答えた市民は59.5%だった。この設問は総合計画の進行管理のため毎年度実施されている定点調査であり、経年での変化を追うことができる。

※ 出典: 熊本市公式サイト「フェアトレードシティくまもと」(59.5%の記載)/総合計画に関する市民アンケート調査

課題

認定更新申請書に、推進組織自身が次の更新までの目標として記した課題は次のとおりである。

  • 協議会の組織としての成熟。事業計画・予算等の体裁を整え、賛助会員の募集による支持層の拡大と、SNS運用による認知度の向上を進める必要があること
  • 協議会内部での情報共有にとどまらず、外に向けた発信を進める必要があること
  • 連携先の各団体で取り組み内容に差があり、連携にあたってはその点への配慮が必要であること
  • フェアトレード産品を扱っていない店舗への普及について、協議会としての関与のしかたが今後の検討課題であること

※ FTFJが外から評価した課題はここには書かない(本節は当事者の記述のみ)。

【FTFJ編集部による解説】他地域への示唆

1. 担い手は「交代」ではなく「積み増し」で替えられる。 熊本市は初回認定から15年のあいだに、申請主体を推進委員会 → NPO法人 → 協議会と三度替えている。注目すべきは、前の担い手が消えていないことである。推進委員会もくまもと未来ネットも、現在は協議会の構成員として残っている。担い手の交代を「引き継ぎ」ではなく「参加者の追加」として設計したことが、15年の継続を支えている。

2. 事務局を行政が持つことの意味。 協議会の事務局は市の国際課にある。認定更新の実務——資料の収集、店舗調査、書類の作成——は、市民団体にとって大きな負担である。ここを行政が引き受けたことで、民間の構成員は自分たちの活動に集中できる。これから認定を目指す地域にとって、「行政に何を頼むか」を考えるときの具体的な選択肢になる。

3. 数を数えられる仕組みを、先に作る。 熊本市の申請書は、イベント回数・報道回数・店舗数・利用組織数を、認定時・前回更新時・今回と三時点で並べている。これができるのは、記録が残っているからである。市民の認知度も、市の総合計画アンケートの定点設問として毎年拾われている。協議会自身が「毎年度各種団体の活動をアーカイブしていくことにより、認定更新に係る事務作業の負担の軽減を図る」と目標に掲げているとおり、記録の仕組みは後から作ると高くつく。運動を始める段階で決めておきたい。

※ 文責: 内山大志


出典

  1. 熊本市公式サイト「フェアトレードシティくまもと」 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00317713/index.html (取得日 2026-08-27)
  2. 一般社団法人日本フェアトレード・フォーラム「熊本県熊本市」 https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/kumamoto (取得日 2026-08-27)
  3. 一般社団法人日本フェアトレード・フォーラム「熊本市をフェアトレードタウンとして4度目の更新認定」2025年8月25日 https://fairtrade-forum-japan.org/archives/4622 (取得日 2026-08-27)
  4. 熊本市「【報道資料】第10回くまもとフェアトレードマルシェの開催について」2025年11月13日 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00367590/index.html (取得日 2026-08-27)
  5. 熊本市「【報道資料】フェアトレードシティくまもと15周年記念事業の開催について」 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00370864/index.html (取得日 2026-08-27)
  6. 熊本市「総合計画に関する市民アンケート調査」 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00361835/index.html (取得日 2026-08-27)
  7. 熊本市「熊本市の推計人口」 https://www.city.kumamoto.jp/list04442.html (取得日 2026-08-27)
  8. フェアトレードシティくまもと推進委員会 https://fairtradecitykumamoto.studio.site/ (取得日 2026-08-27)
  9. フェアトレード体験ミュージアム https://fairtrade-museum.com/ (取得日 2026-08-27)
  10. LOVE LAND-angel- https://lovelandkuma.wixsite.com/home (取得日 2026-08-27)
  11. 熊本市議会会議録検索システム(2022年2月25日・2024年9月9日の発言の確認先) ◆URLを確認のうえ記載