静岡文化芸術大学は2018年2月1日、日本で最初のフェアトレード大学に認定された。人口約80万人の浜松市に立つ、学生1,400人あまりの小さな公立大学である。
この大学の事例が示すのは、認定基準の「書式」と「実質」がずれたとき、審査は何を見るのかという問題である。
認定申請に添付された「フェアトレード大学憲章」の署名者は、学長ひとりだった。基準5は「学生自治会、フェアトレード普及学生団体、大学当局の三者によって策定されている」ことを求めている。認定委員会は現地調査で憲章の草案から最終案までの文案を1枚ずつ取り寄せ、学生2団体の代表に会い、「学生が最初に書き、最後まで残した言葉がどれか」を確認したうえで、基準5を適合と判定した。そして理事会に対して、「署名は三者それぞれの代表者が行うことが望ましい」という付帯意見を付けた。
日本のフェアトレード大学認定は、この1件目で「実質を見る」という前例をつくり、同時に「次からは書式で分かるようにしてほしい」という宿題を自分に課した。
背景
始まりは、一度立ち消えになったイベントだった。
2018年の現地調査報告書は、りとるあーすの設立経緯をこう記録している。
りとるあーす設立の経緯は、2011年5月に、かつて第1回で立ち消えになっていた地域でのフェアトレード・フェアの開催を契機に、実行委員だった下澤教員の声掛けで学生たちが再び結集し、学生普及団体「りとるあーす」の結成へとつながった。
下澤嶽教授(当時)は開発協力・NGO/NPOを担当していた。本人の説明はこうである。
実際に海外に行く学生はそんなに多くないものの、国際協力に関心がある学生は多く、とくにフェアトレードへの関心は強いと感じられたことから、フェアトレード団体の設立を学生に持ちかけたところ、設立となった。
りとるあーすの設立は2011年11月、会則の発効は2013年4月である。大学へのサークル登録は毎年必要で、当時は「同好会」の位置づけだった。
大学の性格も、この事例を読むうえで欠かせない。
本大学は県立短期大学の4年制化を踏まえて、2000年4月に静岡県と浜松市、地元産業界が協力して運営する「公設民営方式」の私立大学として開学し、2010年4月に私立大学から静岡県が設置する公立大学へと移行した。このため、静岡県庁および浜松市庁の意向が強く反映されうる大学となっていると思われる。また、県立大学であるため、地域との連携をとくに重視している。
認定8大学のうち、公立大学法人はここだけである。このことは後に、予算の使い方(基準3・基準5)と、浜松市との関係の両方に効いてくる。
時系列は次のとおりである。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2011年5月 | 地域のフェアトレード・フェアを契機に、下澤教員の声掛けで学生が結集 |
| 2011年11月 | 学生団体「りとるあーす」設立(2013年4月 会則発効) |
| 2015年12月 | りとるあーすから派生した「タベボラ」が屋台型フェアトレードカフェを開始(浜松駅近く・週1回) |
| 2016年2月 | 「はままつフェアトレード・マップ」作成(大学とはままつフェアトレードタウン・ネットワーク) |
| 2016年1月 | 大学全体で「フェアトレード大学」を目指すことの合意形成(大学サイト) |
| 2017年7月6日 | フェアトレード大学憲章 制定 |
| 2017年7月13日 | 憲章の発表・意見交換会(学長による記者発表) |
| 2017年9月 | FTFJへフェアトレード大学認定を申請 |
| 2017年10月22日 | 事務局から認定委員会へ審査を付託 |
| 2017年11月19日 | 浜松市がフェアトレードタウンに認定(日本で4番目)。認定式は静岡文化芸術大学で開催 |
| 2017年12月19日 | 現地調査(長坂寿久 認定委員長・北澤肯 委員) |
| 2018年1月12日 | 認定委員会が理事会へ審査報告(委員長 長坂寿久) |
| 2018年2月1日 | フェアトレード大学認定(日本で1番目) |
タウン認定と大学認定は、2か月半しか離れていない。そして浜松市の認定式は、この大学で行われた。2018年の現地調査報告書は、大学側の意欲をこう記している。
同大学がフェアトレード大学に認定された場合、日本およびアジアで第1号となり、また浜松市が日本で4番目のフェアトレードタウンであることから、市との連携によるフェアトレードへの取組みに意欲をもっている。
※ 出典: 静岡文化芸術大学「フェアトレード大学の取組み」 https://www.suac.ac.jp/about/community/fairtrade/ /日本フェアトレード・フォーラム「静岡県浜松市」 https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/hamamatsu ※ 設立年に食い違いがある。大学サイトとFTFJは「2011年4月発足」、現地調査報告書は「設立は2011年11月」「2011年5月に声掛け」。
主体
この大学の推進体制は、認定後に作られた。
認定時(2018年)に存在したのは、学生団体2つ(りとるあーす・タベボラ)と、顧問教員1名、そして申請窓口となった地域連携室である。憲章策定のための「フェアトレード推進準備会」は、憲章ができた時点で役目を終える臨時の会議体だった。
2021年の更新審査で確認されたのは、それが常設の委員会になっていたことである。
学内に大学当局、学生団体、学生自治会など複数の関係者が、情報共有やフェアトレードに関する大学全体の方針を決定する組織としてフェアトレード推進委員会が設置された。りとるあーすも、自治会である学友会も推進委員会の会議にメンバーとして参加している。
2025年の現地調査は、その運用まで確認している。年2回、対面で開催。参加者は副学長、学友会、りとるあーす、生協学生委員、地域連携室、担当教員。そして、
資料には常に今後3年間の達成目標(申請書類第2部)が掲載され関係者間の共有と意識化が図られていた。
更新申請書の「第2部」——次の3年間で何をするかを自分たちで書いた文書——が、推進委員会の常設アジェンダになっている。これは他の認定事例では確認されていない運用である。
学内の「実行委員会」——公立大学法人の制約への解
2025年の審査報告書が「フェアトレード大学の活動形態の一つとして注目すべき点」と書いた発見がある。
地域連携室の説明はこうである。
公立大学法人として、FT大学のノベルティ商品等を制作して販売するために直接的な支出をすることは難しい。そのため推進委員会に予算をつけ、独自の活動や周知・PR活動を行っている。推進委員会が、いわゆる「実行委員会」のような位置づけで、大学の予算とは異なる予算支出を行えるようにし、活動の自由度を上げている。
同じ制約は「カスから生まれるプロジェクト」でも回避されている。
フェアトレード推進委員会の企画として大学からフェアトレード研究費予算が付いたが、大学予算は収入を伴う実践活動には充てられないため、商品開発までは大学予算による教員の研究とし、販売、広報はりとるあーすが担当した。
公立大学法人は、収益の出る活動に直接お金を出せない。それを「研究(大学予算)」と「販売(学生団体)」に切り分け、その間を推進委員会がつないでいる。制度の制約を、役割分担で解いた事例である。
※ 出典: 静岡文化芸術大学「フェアトレード大学の取組み」/同「教員紹介」 https://www.suac.ac.jp/education/faculty/culture/ /同「名誉教授紹介」 https://www.suac.ac.jp/education/faculty/honor/
取り組み
基準1 学生団体の大学公認と顧問教員
認定時(2018年):りとるあーすは同好会として登録され、顧問(下澤嶽教授)がいることを、大学が受理した「学生団体設立継続願」で確認。会員22名(2017年7月1日現在)。派生団体タベボラ(会員13名)も同好会として活動。判定:適合。
1回目の更新(2021年):りとるあーすが同好会から公認クラブに格上げ。加えて、フェアトレード推進委員会の設置と、はままつチョコプロジェクト・カスから生まれるプロジェクトの立ち上げが確認された。判定:適合。
2回目の更新(2025年):りとるあーすの主体的な活動と、その維持のための工夫が確認された。現地調査報告書は、代表の運営方針をこう記録している。
一人一人に仕事を分担し、自分が必要な存在であることを感じてもらうとともにイベント等の楽しさも体験してもらうことで部員のモチベーション維持への工夫を意識的に行っている。次の代の考え方ややり方でやりたいことを自由にやってほしいという思いで、基本的に単年度で完結する活動としている。
「単年度で完結させる」というのは、継続の仕組みとしては逆向きに見える。だが、後述する「はままつチョコプロジェクト」の経験を踏まえると、これは意識的な選択である。
この回、体制上の変化が1つ確認された。
これまで学生団体及び学内のあらゆる活動に顧問である武田氏が関わっており、負担の大きさが懸念されたが、今年度より着任した石坂氏が学生団体およびフェアトレード普及活動の一端を担うようになり、大学としても、より安定したサポート体制が整備されていることを確認した。
認定委員会が「1人への集中」をリスクとして名指しし、その解消を確認した記録である。判定:適合。
なお、タベボラは非公認団体のままで、2020年以降SNSの情報発信が途絶えている(2025年 現地調査報告書)。憲章の策定に参画した2団体のうち1つは、現在活動が確認できない。
基準2 普及活動・研究教育活動
認定時、認定委員会はここを最も弱いと見ていた。
学生たちの活動展開は活発である反面、大学としての研究・教育面での取り組みはまだ十分とはみられないが、今後の展開を具体的に計画しており、研究・教育の一層の充実が期待できると感じられた。
8年後、ここが最も伸びた基準になっている。
| 認定時(2018年) | 更新1(2021年) | 更新2(2025年) | |
|---|---|---|---|
| FT専門の授業 | なし(開発協力学の一環で言及) | 「フェアトレード論」2020年度開講 | 継続。毎年70名程度が履修(学科定員100名の7割)。一般公開・社会人聴講生3名 |
| FT担当の専任教員 | — | 武田氏を専属教員として採用 | 武田・石坂の2名体制 |
| FT関連の研究・教育に関わった教員 | 数名 | — | 13名(前回より増加) |
| 研究費 | — | 学内競争資金・外部資金 | 継続 |
「フェアトレード論」が学科定員の7割に届いていることは、記録に値する。1限目の学科選択科目である。
学生の活動は、商品開発を軸に展開してきた。
| 商品 | 時期 | 協働先 | 現況 |
|---|---|---|---|
| 地球スコーン(マスコバド糖) | 2016年2月〜 | 就労支援事業所「いもねこ工房」 | — |
| メリエンダ | 2012年〜 | Teebom/社会福祉法人ひまわり工房 | 販売中(2023年パッケージリニューアル) |
| ピナショコラ | 2022年1〜3月 | 春華堂/SUNSHINE VERDE ISLAND | 販売終了 |
| カスカラティー | 2022年2月〜 | Teebom(OEM) | 販売中 |
| フェアトレードタオル | 2024年11月〜 | ホットマン株式会社 | 販売中(30枚制作) |
「はままつチョコプロジェクト」の総括は、この記事で最も参照価値のある部分である。
2018年4月から2022年3月までの期間限定プロジェクトだった。フィリピン産カカオとココナッツシュガーを使い、浜松の製菓企業・春華堂のカカオラボで加工。地元産の落花生、茶、はちみつを加えて商品化し、2,000個を製造した。学生は遠鉄百貨店でのバレンタイン販売に加え、ヤマハなど地元大手企業を回って社内販売の営業をした。2022年3月に完売した。
そして、利益の行き先が記録されている。
経費管理は推進委員会で行い、結果として、30万円分のプレミアム(利益)を生産者側に還元した。具体的には、(現地の輸入団体の担当者)を通じて現地のニーズを聴き、地域住民が安全に暮らせるようにカカオ畑の道中に外灯をつけるために活用された。
学生プロジェクトが、生産地に何を残したかまで追跡できている事例は、他にない。
同時に、このプロジェクトは終わっている。理由も記録されている。
学生団体について、実際に現地に行った代の学生は思いが深いが、次の世代以降は熱量の継続が難しく、自身が経験していない先輩の功績をメディアなどに語らなければならないつらさもあり、2020年頃はアクティブメンバーが5名程度まで減ってしまった(登録は20名程)。
チョコプロジェクトは、もともと期間限定であり発起人の下澤氏が退職し、武田氏は他プロジェクトで手一杯のため継続は難しかった。
「先輩の功績を、自分は経験していないのに語らなければならないつらさ」——これは、認定大学すべてに関わる記述である。
「カスから生まれるプロジェクト」は、その反省の上に設計されている。
チョコプロジェクトの反省から、商品生産販売の継続性を担保するために、地域の企業に声をかけた。手をあげてくれたのがTeebomで、12年前にお菓子メリエンダを共同開発したころからのつきあいである。
商品の生産と販売を企業のOEMに移し、学生は販売と広報を担う。2025年の審査報告書はこれを「原材料生産者への貢献継続に繋がりフェアトレード本来の意義を重視した大切な視点」と評価した。
同プロジェクトは、令和6年度 気候変動アクション環境大臣表彰「気候変動アクション大賞」(普及・促進部門、緩和・適応分野)を受賞している(表彰式 2024年12月2日)。その前年には令和5年度 静岡県地球温暖化防止活動県知事褒章を受けている。
受賞は、学科横断のプロジェクト設計から生まれている。
語学が得意な国際文化学科、地域社会に関心のある文化政策学科、商品やパッケージデザインが得意なデザイン学科、イベント企画運営が得意な芸術文化学科と、大学の全学科の教育分野の特性が活かされたプロジェクトとなっている。
判定:3回とも適合。
基準3 大学当局によるフェアトレード産品の購入・利用
この基準は、認定時は「1件のみ」だった。
| 認定時(2018年) | 更新1(2021年) | 更新2(2025年) | |
|---|---|---|---|
| 入試業務での飲料提供 | これ1件のみ(年5回の入試室でコーヒー・紅茶) | 継続 | 2024年度をもって取りやめ(大学の財政事情) |
| 教職員名刺(バナナペーパー・選択制) | — | 導入 | 2021-23年度でのべ85名10,800枚(年平均28名3,600枚。2020年の24名2,400枚から増加) |
| 卒業証書フォルダ内側台紙(バナナペーパー) | — | 2020年度から導入 | 3年間で1,050冊分 |
| フェアトレードコットンのトートバッグ | — | 導入 | 交換留学生への配布・広報誌のアンケート景品 |
認定時の判定文はこうである。
フェアトレード産品の調達は、具体的には現在は1件のみではあるが、今後の展開としては期待できると思われる。よって本基準適合と認定した。
その「期待」は、3年で4種類に広がった。そのきっかけを、2021年の審査報告書は職員の言葉で記録している。
大学職員への聞き取りから、フェアトレード大学憲章が策定されたことで、大学内でフェアトレード関連の商品購入がしやすくなったという声が聞かれた。
憲章は、飾りではなく調達の根拠として機能した。
そして2025年、この基準に初めて後退が記録された。
入試業務時のフェアトレード飲料提供については、2024年度は大学全体の財政事情によりカット対象となっており、今後の不安材料として懸念される。
認定時の唯一の実績が、8年目に消えた。
もう1点、認定委員会自身への指摘がある。
調達については、どのようなものが該当するのか情報がなく大学当局も課題と感じている様子で、FTFJとして活動促進のための情報提供の必要性を感じる場面であった。
判定:3回とも適合。
基準4 学内での2品目以上の販売・提供
大学生協が一貫して担っている。
| 認定時(2018年) | 更新1(2021年) | 更新2(2025年) | |
|---|---|---|---|
| 主な取扱 | キャドバリー チョコ1品/People Tree チョコ7品/ろばや コーヒー6品・紅茶4品/小川珈琲 コーヒー1品 ほか | 第三世界ショップ商材/SUAC生協独自のフェアトレードコーヒーを商品化 | 第三世界ショップ商材/Tony’s チョコ(国分グループ本社)/カスカラティー(月20〜50個仕入) |
| 陳列 | 常設の棚 | 店舗の奥から入口正面の棚へ移動。書籍コーナーにFT関連書籍のコーナー新設 | 売店の一等地に棚。書籍コーナー1段 |
| 食堂での提供 | 未実施 | — | 提供していない(事業連合の一括調達化により独自調達が困難) |
2025年の調査で確認された生協側の姿勢は、記録に値する。
フェアトレード商品は飛ぶように売れるわけではないが、パート従業員が販売のためのPOPづくりなどして販促活動をしてくれている。パート従業員全員がFT大学であることを認知して販売している。最近では商品選択も行っている。
生協の職員は数年ごとに異動する。2022年に着任した業務責任者について、報告書は「大学生協としてもそうしたことを十分に理解したうえで協力している姿勢が非常に伝わる聞き取りであった」と書いている。担当者が替わっても引き継がれている。
一方、食堂には制度の壁がある。
生協食堂での食材調達については、事業連合が一括して決定するようになったため簡単には導入ができなくなったとのことだったが、事業連合に働きかけをすることで食材の選択肢が増え得るとのことであった。
これは静岡文化芸術大学固有の問題ではなく、全国の大学生協に共通する構造である。
判定:3回とも適合。
基準5 フェアトレード大学憲章の策定と三者の賛同
この基準が、この事例の中心である。
憲章は、学生が最初に書いた
策定は「フェアトレード推進準備会」で行われた。参加者は、大学側が副学長・地域連携室・下澤教授・生協学生課、学生側が学友会代表・りとるあーす代表・タベボラ代表である。
プロセスは、現地調査報告書に段階まで記録されている。
まず学生側のりとるあーすとタベボラが一緒に原案を作成した。この原案に下澤顧問が若干手を入れ、それをフェアトレード推進準備会に提出して修正、次いで全学の部長級以上が参加する大学運営会議で検討し、さらに「教育・研究審議会」で諮り、最終案に至り、同時に各学部教授会に諮った。この間学長も参加して学生たちとの意見調整も行われた。
認定委員は、学生草案から最終案までの各段階の文案コピーを現物で入手している(報告書に「添付」と明記)。
学生側の証言も記録されている。
最初は英国のフェアトレード大学のケースを勉強したが、英国のケースはタスクを求める傾向のものが中心で、理念を表明する形のものはほとんどなかったので参考にならなかった。
フェアトレード推進準備室での会議では、大人側の言葉がたくさん追加されてきた。例えば、多文化共生、地産地消(浜松の地元を大切にするような言葉として)、等々が追加されてきた。
学生側として大切にしたキーワードとしては、フェアトレードが「当たり前になる」「(途上国の人々が)自分の権利を主張する」「身近な国際協力」などである。
認定委員は、最終憲章のどの語がどの学生キーワードに対応するかまで対照している。
フェアトレード憲章をみると、上記の、「身近な国際協力」、「平等を訴えつづけること」(「自分の権利を主張」の代替)、「フェアトレードがより広く理解され、『あたりまえ』になる社会を目指し」が挿入されている。
大学運営会議での議論
学長(当時)の説明として、報告書は次を記録している。
第1回の大学運営会議では大いに意見が出た。フェアトレード大学に反対/否定的な意見はなく、内容についての意見である。例えば、「貧しい人を救うというのは上から目線ではないか」、「豊かさとは何か」、「べきである論への批判」、「「共に」の視点の必要性」、等々の指摘があった。これら指摘について、学長室で、学生たちとも再検討していきつくり上げていった。
文化政策学部長(当時)は「教授会を含め、各段階での会議の推移もみて、温度差は人により異なるものの、フェアトレード大学に反対する教員はいなかった」と説明している。
そして、付帯意見
署名は学長ひとりだった。認定委員会は基準5を適合としたうえで、理事会に付帯意見を付けた。
本「認定基準5」は、「学生自治会(学友会などそれに準ずる組織)、フェアトレード普及学生団体、大学当局の三者によってフェアトレード大学憲章が策定されている。」ことと明示されている。この点で、「フェアトレード大学憲章」の署名者が学長のみとなっている点に注意を喚起しておきたい。
認定委員会としては、「フェアトレード大学憲章」への署名は、本来の目的・意図として、①学友会(これに準ずる組織)、②フェアトレード普及学生団体(今回の場合は2団体)、および③大学当局のそれぞれの代表者が行うことが望ましいと考える。
認定委員会は、この付帯意見について別紙の解説文書まで作成している。そこには審査運用上の危機感が率直に書かれている。
審査の上では、本来、基準を満たすことが書面審査で確認できるものであることが必要であり、それがない申請書類は好ましくない。その点で、大学側当局者(責任者)独りの署名ではその点は確認できず、その策定プロセスを詳しく調べなければならないことになる。そして、その判定への客観的事実の収集に苦慮することになり、また調査に時間を要することになる恐れがある。
今回は、上記のように大学関係者側から積極的にそうした情報・文書の提供が行われたため確認ができたが、今後申請ある大学がすべてそのようであるとは限らない恐れもあろう。
さらに、複数署名を求める理由が、継続性の観点から説明されている。
大学時代にサークル活動としてフェアトレードに積極的に取り組んだ人たちが、社会人となって続かず、継続的な取り組みとなりづらい面があることも確かである。しかし、この点では、憲章策定に複数署名を義務付けることによって、単に経営者側が提示する憲章としてではなく、学生側からの積極的な参画と大学側との合意により策定されたものであることを明示し続けることによって、後輩たちの継続性を補強する意味合いも期待できるであろう。
そして、フェアトレードタウンとの対比が置かれている。
フェアトレードタウンの理念は、(中略)市民団体が市民の理解を深める活動を通して、基準6の自治体議員の理解を得、首長による宣言の発表に至る、ボトムアップのまちづくりを展開する活動であることである。
このボトムアップの理念はフェアトレード大学では、大学憲章策定のプロセスにおいて最初から学生たちが関わっていくところにあり、それは複数署名によって証明されることになると考えられる。
その後
2021年の更新審査で、この付帯意見は改めて問われている。
大学当局からすでに当時の学生団体の代表がすでに卒業するなど困難であるため、団体名を表記することを代替案として提案を受けた。
署名は、現在も学長のみである。2026年8月時点で公開されている憲章画像を確認した。
判定:3回とも適合。
所在自治体(浜松市)のフェアトレードタウン運動への関与
大学記事で必ず記録すべき項目である。静岡文化芸術大学の関与は、次の形で確認できる。
| 関与の形 | 内容 | 対応する基準 |
|---|---|---|
| タウン認定式の会場 | 2017年11月19日、浜松市のフェアトレードタウン認定式を大学で開催 | タウン基準6 |
| はままつフェアトレード・マップの作成 | 2016年2月、大学とはままつフェアトレードタウン・ネットワーク(HFTN)が共同作成 | タウン基準2・5 |
| 商品開発での協働 | ピナショコラはHFTNとのコラボ。ネットワークのメンバーが仲介してフィリピンのカカオ生産者へ | タウン基準4 |
| 授業への市民団体の参画 | 全学生履修可能な「静岡学」(履修250名程度)で、元HFTN代表が毎年1コマ講師を務めている | タウン基準2 |
| 市職員の出向 | 公立大学法人として、浜松市から職員が大学へ出向している | — |
| 相互リンク | 浜松市サイトに大学のリンク。FT大学認定を受けて以降に実現(2025年 現地調査) | タウン基準6 |
| 地域イベントでの出店 | イオン志都呂「市民交流フェスタ」、イオンモール浜松市野「プラスエシカルマルシェ」など | タウン基準2 |
| 全国フォーラムの開催 | フェアトレード全国フォーラム2017(2017年11月)・2019(2019年11月30日)を浜松で開催 | — |
2025年の審査報告書は、この関係を次のように評価している。
公立大学法人として、市から職員が出向していることもあり、フェアトレードタウンとしての浜松市との連携も見られるのは、SUACの特徴の一つと思われる。
浜松市の公式サイトは、大学を独立した見出しで紹介している。
静岡文化芸術大学がアジア初のフェアトレード大学です!(浜松市「フェアトレードタウンはままつについて」/更新日 2026年5月21日)
一方で、大学サイトの次の記述は、現時点では不正確である。
以降、札幌市、いなべ市、鎌倉市が認定を受け、国内6つの都市に広がっています。浜松市は、フェアトレードタウンとフェアトレード大学がそろった国内で初めての都市です。
認定タウンは現在8市である(熊本・名古屋・逗子・浜松・札幌・いなべ・鎌倉・大府)。
なお、「はままつフェアトレードタウン・ネットワークの事務所が下澤研究室に置かれていた」という情報は、公開情報でも一次資料でも裏づけが取れなかったため、本記事には記載していない。
※ 出典: 浜松市「フェアトレードタウンはままつについて」 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kurashi/fairtradetownhamamatsu.html /はままつフェアトレードタウン・ネットワーク http://h-fairtrade.net/
成果
| 指標 | 認定時(2018年) | 更新1(2021年) | 更新2(2025年) |
|---|---|---|---|
| 学生数(学部・院計) | 約1,460人(2017年7月1日) | — | 1,475人(2026年5月1日) |
| 普及学生団体の位置づけ | 同好会(りとるあーす) | 公認クラブに格上げ | 公認クラブ |
| FT関連の学生団体 | 2(りとるあーす/タベボラ) | 4(+チョコプロ/カスから) | 2(りとるあーす/カスから。タベボラは活動休止状態、チョコプロは終了) |
| 学内推進体制 | フェアトレード推進準備会(臨時) | フェアトレード推進委員会(常設) | 常設・年2回対面 |
| FT専門の授業 | なし | 「フェアトレード論」開講(2020年度〜) | 継続。履修70名程度/年、社会人聴講生3名 |
| FT研究・教育に関わった教員 | 数名 | — | 13名 |
| 大学当局の調達品目 | 1件 | 4種類 | 3種類(入試業務での飲料提供が2024年度でカット) |
| 生協の主な取扱 | 4社19品目 | 第三世界ショップ+生協独自FTコーヒー | 第三世界ショップ+Tony’s+カスカラティー |
| 憲章の署名者 | 学長のみ | 学長のみ(団体名表記を代替案として提案) | 学長のみ(変更なし) |
| 中期計画への位置づけ | 記載なし | — | 第3期中期計画に明記+KPI設定 |
大学の計画文書における位置づけ
これは、認定後に獲得したものである。
平成30年度(2018年度)の自己評価書には、フェアトレードの記載がない。認定を受けた年度である。
第3期中期計画(令和4年3月30日認可/令和4〜9年度)に、初めて明記された。
3 地域貢献(1)地域社会との連携 ・フェアトレード大学としての実践をはじめとするSDGsへの取組を通じて、地域社会に貢献するとともに、持続可能な社会の担い手を育成する。
評価指標(KPI)も設定されている。
評価指標 フェアトレード大学やSDGsに関する取組(学外への発信)件数:過去3年平均以上/毎年
静岡県公立大学法人評価委員会の令和6年度評価指標一覧に、実績値が載っている。
| 計画No. | 指標 | 目標数値 | R6年度実績値 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 92 | フェアトレード大学やSDGsに関する取組(学外への発信)件数 | 過去3年平均以上/毎年(R3-R5平均値:11件) | 11件 | ○ |
さらに、県の評価委員会は「特に評価する項目」として次を挙げている(令和4事業年度評価結果/令和5年8月)。
SDGs推進に向け、フェアトレード大学としての取組を地域社会に積極的に情報発信した。今後、地域の企業等と連携し、具体的な取組の展開が期待できる
認定タウン編の逗子市に対応する構図である。行政計画のKPIになると、実績値が毎年公表され、外部評価の対象になる。大学の場合、それは設置者(静岡県)による法人評価という形をとる。
ただし、令和7年度・令和8年度の年度計画と、令和6年度の業務実績報告書は、大学サイトに掲載されていない(2026年8月28日確認)。したがって、2025年3月の2度目の更新認定を、大学が業務実績としてどう報告したかは確認できていない。
認知度
静岡文化芸術大学については、学内のフェアトレード認知度を測った調査は確認できませんでした。
タウン編では名古屋市・浜松市・逗子市が市民アンケートで認知度を測っており、大学編では札幌学院大学の「新入生のフェアトレード認知度が8割を超える」との記載がFTFJのお知らせにあります(※未検証)。静岡文化芸術大学については、同種の調査が公開情報でも一次資料でも見つかりませんでした。
代わりに、間接的な指標が2つある。
- 「フェアトレード論」の履修率:学科定員100名に対し毎年70名程度が履修(1限目の学科選択科目)
- 大学案内での扱い:大学案内2024はトップページにフェアトレード特集。2025年版には「貧困問題に興味があり、フェアトレード大学として有名なSUACへ」入学したという在学生の声が掲載されている
2つ目は、認定が入試広報として機能していることを示す。2025年の現地調査報告書は「大学は、こうした取り組みを特色の一つとして学生募集の柱と認識している」と記録している。
※ 出典: 静岡文化芸術大学 第3期中期計画 https://www.suac.ac.jp/about/operation/disclosure/mediumplan/file/32766/_dai3ki_chukikeikaku.pdf /静岡県 公立大学法人静岡文化芸術大学の令和6年度評価指標一覧 https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/069/933/siryou06.pdf /静岡文化芸術大学 大学データ集 https://www.suac.ac.jp/about/operation/data/ ※ すべて公開資料。PDFの該当ページを直接確認済み(2026年8月28日)。
課題
当事者が語った課題のみを記す。
1. 学年構造という「伝統」(2018年・学生の自己認識)
認定時の現地調査が、最初に記録した課題である。
当大学では同好会などサークル活動は2年生までで、3年生になると会合にも出席せず活動を止めてしまうことが伝統になっているという。いつも2年生がリーダーであり、3・4年生は会合にも出てこなくなる。3年になるとゼミが始まること、各種の資格試験などがあるためとされている。つまり活動は2年生、そして新規会員となった1年生が主体となる。そのため、会の伝統や活動展開の底が浅くなりがちとなり、りとるあーすでいえば、フェアトレードに関する知識や体験が限定的となりがちとなる。
学生たち自身がこれを自覚していたことも記録されている。
フェアトレード大学となり、対外的にも責任を負う形となった場合、現在の2年生のリーダーたちが3年生になったとき、いかに活動を継続させるかが課題の1つとなるという自覚を学生たちはもっている。
8年後、りとるあーすの代表・副代表・会計はいずれも2年生である(2025年 現地調査の面談者リスト)。構造は変わっていない。
2. 「経験していない先輩の功績を語る」負担(2025年)
実際に現地に行った代の学生は思いが深いが、次の世代以降は熱量の継続が難しく、自身が経験していない先輩の功績をメディアなどに語らなければならないつらさもあり、2020年頃はアクティブメンバーが5名程度まで減ってしまった(登録は20名程)。
これは、成果が上がるほど重くなる種類の負担である。カスから生まれるプロジェクトの環境大臣表彰の後、取材が増えた。現地調査報告書は、取材が地域連携室を通す運用になっていること、フェアトレードと無関係の政治的テーマについてまで学生団体名指しで取材依頼が来たこと(大学側が断った)を記録している。
3. 大学の財政事情(2025年)
入試業務時のフェアトレード飲料提供が、2024年度をもって取りやめになった。認定時の唯一の基準3実績である。認定委員会は「今後の不安材料として懸念される」と書いた。
4. 調達の情報不足(2025年)
調達については、どのようなものが該当するのか情報がなく大学当局も課題と感じている様子で、FTFJとして活動促進のための情報提供の必要性を感じる場面であった。
5. 生協食堂の一括調達(2025年)
食材の調達が、大学生協全体の事業連合一括で決定されるようになったため、独自での調達が難しい。
6. 認定後に教員の関与が薄れる傾向(2025年)
この3年間にフェアトレードの研究・教育に関わった教員数13名と前回と比べて増えている。公開講座をきっかけにする等、武田氏の個人的なつながりで広がっている状況である。一方、フェアトレード大学の認定以降は、積極的な関わりがなくなる傾向にある。
関与する教員は増えているが、入口が武田氏の個人的なつながりに依存している。
出典
- 静岡文化芸術大学「フェアトレード大学の取組み」 https://www.suac.ac.jp/about/community/fairtrade/ (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学「静岡文化芸術大学フェアトレード大学憲章」(画像) https://www.suac.ac.jp/about/community/fairtrade/file/23294/fairtrade_university_charter.jpg (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学 プレスリリース「「国内初」2度目のフェアトレード大学認定更新」 https://www.suac.ac.jp/about/pr/press_release/file/32973/no.002-25_pressrelease.pdf (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学「2度目のフェアトレード大学認定更新を記念し、学長報告を実施しました」(2025年6月17日) https://www.suac.ac.jp/topics/topics/2025/03733/ (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学「学生団体「りとるあーす」による「カスから生まれるプロジェクト」が令和6年度気候変動アクション環境大臣表彰で「気候変動アクション大賞」を受賞しました」(2024年12月10日) https://www.suac.ac.jp/topics/success/2024/03586/ (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学 第3期中期計画 https://www.suac.ac.jp/about/operation/disclosure/mediumplan/file/32766/_dai3ki_chukikeikaku.pdf (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学 第3期中期目標 https://www.suac.ac.jp/about/operation/disclosure/mediumplan/file/24668/dai3ki_chukimokuhy.pdf (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学 令和6年度計画 https://www.suac.ac.jp/about/operation/disclosure/mediumplan/file/30534/r6nendokeikaku.pdf (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学 大学データ集 https://www.suac.ac.jp/about/operation/data/ (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学 教員紹介(文化政策学部) https://www.suac.ac.jp/education/faculty/culture/ (取得日 2026-08-28)
- 静岡文化芸術大学 名誉教授紹介 https://www.suac.ac.jp/education/faculty/honor/ (取得日 2026-08-28)
- 静岡県「公立大学法人静岡文化芸術大学の令和6年度評価指標一覧」 https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/069/933/siryou06.pdf (取得日 2026-08-28)
- 浜松市「フェアトレードタウンはままつについて」(更新日 2026年5月21日) https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kurashi/fairtradetownhamamatsu.html (取得日 2026-08-28)
- はままつフェアトレードタウン・ネットワーク http://h-fairtrade.net/ (取得日 2026-08-28)
- 日本フェアトレード・フォーラム「静岡文化芸術大学」 https://fairtrade-forum-japan.org/fairtradeuniversity/details/suac (取得日 2026-08-28)
- 日本フェアトレード・フォーラム「静岡文化芸術大学をフェアトレード大学に更新認定」 https://fairtrade-forum-japan.org/archives/4161 (取得日 2026-08-28)
- 日本フェアトレード・フォーラム「日本のフェアトレード大学基準」 https://fairtrade-forum-japan.org/fairtradeuniversity/domestic-standard (取得日 2026-08-28)
- 大学プレスセンター「静岡文化芸術大学が日本初の「フェアトレード大学」に認定」(2018年2月9日) https://www.u-presscenter.jp/article/post-38835.html (取得日 2026-08-28)
- 大学プレスセンター(2025年6月20日) https://www.u-presscenter.jp/article/post-56599.html (取得日 2026-08-28)
- 静岡新聞アットエス「アジア初!フェアトレード大学から誕生「カスカラティー」」(2022年6月6日) https://www.at-s.com/feed/article/onmoplus/1076566.html (取得日 2026-08-28)
報道(大学「新聞掲載情報」で確認)
- 2022年1月26日 静岡新聞(朝刊29面)「フェアトレード運動推進大学 静岡文化芸術大を再認定」
- 2022年4月23日 静岡新聞(朝刊21面)「フェアトレード大学 再認定 静岡文化芸術大で記念式典」
- 2023年6月29日 静岡新聞(朝刊15面)「フェアトレードと環境問題の関係解説 静岡文化芸術大でシンポ 浜松」
- 2023年7月25日 静岡新聞(朝刊32面)「フェアトレード菓子に新しい味 静岡文化芸術大サークル 就労支援施設などと開発 今秋発売へ」
- 2024年12月6日 静岡新聞(朝刊17面)「コーヒー豆「カス」でお茶 商品化 静岡文化芸術大「りとるあーす」に大臣表彰」
- 2024年12月7日 中日新聞(朝刊14面)「コーヒー果皮使った「カスカラティー」うまい取り組み大臣賞」
- 2025年5月8日 中日新聞(朝刊12面)「フェアトレード活動 熱意が持続 文化芸大サークル 認定更新」
- 2025年5月10日 読売新聞(朝刊27面)「「フェアトレード大学」静岡文芸大 認定更新 2度目は国内初」
- 2026年1月31日 朝日新聞(朝刊29面)「(2030 SDGsで変える)フェアトレードの輪、広げるには」
※ 2018年の認定時の新聞報道は確認できませんでした。大学の「新聞掲載情報」は令和元年度(2019年度)が最古です。
【FTFJ編集部による解説】他地域への示唆
1. 憲章は、誰が署名したかで、その後8年の使われ方が決まる。
静岡文化芸術大学の憲章は、学生が最初の原案を書き、大学運営会議・教育研究審議会・両学部教授会を通り、学長の記者発表で公表された。プロセスは、認定基準が求める「三者による策定」を実質的に満たしている。認定委員会は各段階の文案を現物で確認し、そう判定した。
それでも認定委員会は付帯意見を付けた。署名者が学長ひとりだったからである。理由を、委員会は2つ挙げている。1つは審査の実務——書面で確認できない基準は、確認に時間と労力がかかり、すべての大学が同じように資料を出してくれるとは限らない。もう1つが本質的な理由である。
「明示し続ける」——これが、学生団体という4年で入れ替わる主体を相手にしたときの、文書の役割である。
そして実際、この大学では憲章が使われている。2021年の更新審査で、大学職員はこう語った。「フェアトレード大学憲章が策定されたことで、大学内でフェアトレード関連の商品購入がしやすくなった。」基準3の実績が1件から4種類に増えたのは、この後である。
これから認定を目指す大学への含意は明快である。憲章に、学生団体と学生自治会の代表が署名すること。署名が学長のみでも認定は取れる。だが、署名は8年後に効いてくる。
2. 「一過性にしない」の答えは、企業への移管かもしれない。
はままつチョコプロジェクトは、期間限定の設計だった。2,000個を完売し、30万円のプレミアムを生産地に還元し、カカオ畑の道に外灯が立った。成功したプロジェクトである。そして、終わった。発起人の教員が退職し、後任は他のプロジェクトで手一杯だったからである。
その反省から設計されたのが、カスから生まれるプロジェクトである。商品の生産と販売を地元のフェアトレード企業へOEMで移し、学生は販売と広報を担う。学生が抜けても商品は残り、生産者への支払いは続く。
認定委員会はこれを「原材料生産者への貢献継続に繋がりフェアトレード本来の意義を重視した大切な視点」と評価した。
同時に、この設計には代償がある。学生が担うのは開発ではなく広報になる。2025年の現地調査で学生が語ったのは、「実際に商品開発をした先輩から商品の背景を聴いて、その思いをつなげて広めることを役割と認識している」という言葉だった。開発の当事者性は、企業に移管した時点で失われている。
それでも、この選択には理がある。認定大学が「一過性の学生プロジェクト」を繰り返す限り、生産者との関係は数年で切れる。フェアトレードの目的から見れば、続くほうが正しい。
3. 公立大学法人の制約は、役割分担で解ける。
静岡文化芸術大学は、認定8大学のうち唯一の公立大学法人である。公費で運営される法人は、収益の出る活動に直接支出できない。商品を作って売るという、フェアトレード大学の活動の中心にあるものが、そのままではできない。
この大学の解き方は2段構えである。
認定委員会は前者を「フェアトレード大学の活動形態の一つとして注目すべき点」と記録した。国公立大学からの認定申請が今後増えるなら、これが参照事例になる。
※ 文責: 内山大志 ※ 執筆者はFTFJ代表理事であり、2025年3月4日の2度目の更新認定を行った理事会の構成員である。(原則8にもとづく開示)