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取扱店を増やす — いなべ市の6つの実務と、8市の基準5

この記事が答える問い

フェアトレードタウン基準5は、人口1万人あたり1店のフェアトレード産品取扱店を求めます。申請を検討する自治体から最も多く寄せられるのは、「その店をどうやって増やすのか」という問いです。

この記事は、認定8市の審査記録から、取扱店が実際に増えた事例の手順と、8市が到達している水準のばらつきを並べたものです。中心に置くのは、正会員4名の推進組織が3年で取扱店を約5倍にしたいなべ市です。

1. いなべ市 — 6.5店が31店になった3年間

いなべ市は2019年9月に認定されました。認定時の取扱店は6.5店(カウント数)で、人口45,625人に対する必要店舗数5店をわずかに上回る水準でした。倍率にして1.3倍。基準を満たしてはいるものの、余裕はありません。

その3年後、31店になっています。

認定時(2019年) 1回目の更新(2022年) 2回目の更新(2025年)
人口 45,625人 44,800人 44,426人
必要店舗数 5店 4店 5店
実績(カウント数) 6.5店 31店 29店
必要数に対する倍率 1.3倍 7.8倍 5.8倍

この6.5店から31店への変化は、そのまま取扱いの実数の増加を表すものではありません。数え方については「4. 8市はどの水準にいるか」の注記を参照してください。

推進組織「いなべフェアトレードタウン」の正会員は4名です。2022年の審査報告書は、この4名が何をしたのかを具体的に記録しています。

特筆すべきは、認定後に取扱店が急増したことである。その背景には、いなべフェアトレードタウンの会員自らが店舗を巡回訪問し、新たな取扱店を開拓するとともに、既存取扱店の支援を行う独自の取り組みがある。

商品の取り寄せ先や取扱店ごとに担当制とし、各取扱店の状況に応じ、委託販売としたり、買取りとしたりするなど柔軟な対応を行っている。取引量が一定額に達しないと送料を負担しなければならないため、複数店舗の分をまとめて仕入れられるよう調整も行っている。

定期的に訪問し、商品の補充や集金を行うほか、ポップを作成したり、フェアトレードタウンマップを配架したりするなど丁寧な支援を行っている。新たに取り扱うこととなる店舗には、賞味期限のない塩や砂糖を勧めるといった工夫もある。

2. 6つの実務に分解する

# 何をしたか 店側から見て何が消えるか
1 取扱店ごとに担当制を敷く 「誰に聞けばいいか分からない」が消える
2 委託販売と買取りを店ごとに使い分ける 在庫を買い取るリスクが消える(委託にできる)
3 複数店舗分をまとめて仕入れる 1店では発生する送料負担が消える
4 定期訪問で補充と集金を行う 発注・補充・入金処理の手間が消える
5 ポップとマップを推進組織が用意する 販促物を作る手間が消える
6 新規店には賞味期限のない塩・砂糖を勧める 売れ残りのリスクが消える

6つはいずれも同じ一点に向かっています。店側の負担とリスクを、推進組織の側が引き受けるということです。

2025年の現地調査でも同じ姿が確認されています。

協力店舗訪問時に何件か同じようなFT商品の詰め合わせが見られた。おそらく気軽に店舗に置けるように推進組織から提案されたのだと思われる。さらに、販売における経済的リスクを下げるために、推進組織で一括購入した商品を希望する各店舗に卸す形態をとっている。

推進組織が、事実上の卸になっています。これが正会員4名で29店を支えている仕組みです。

3. この方法が成立する条件

転用するときに確認すべき条件が3つあります。

第一に、一括購入の資金が要ります。推進組織が買い取って各店に卸す形は、在庫を推進組織が持つということです。いなべ市の推進組織がこの資金をどう手当てしているかは、審査記録に記載がありません。

第二に、定期訪問できる店舗数の上限があります。29店を4名で回る密度が成立するのは、市域が限られているからです。人口232万人・238.5店の名古屋市に同じ方法をそのまま適用することはできません。

第三に、この方法は「増やす」ためのものであって、「維持する」ための保証ではありません。いなべ市自身、2022年の31店が2025年に29店へ戻っています(うち1店は集計誤りの修正)。

4. 8市はどの水準にいるか

基準5は「人口1万人あたり1店」ですから、必要数は人口に比例します。実績が必要数の何倍にあたるかを並べると、市の規模と倍率が逆向きになります。

市 直近のカウント数 必要店舗数 倍率
名古屋市(2024年) 238.5店 233店 1.02倍
大府市(2026年) 11.5店 9店 1.28倍
札幌市(2025年) 261.5店 196店 1.33倍
鎌倉市(2025年) 26店 17店 1.53倍
浜松市(2023年) 131.5店 79店 1.66倍
逗子市(2025年) 23.5店 6店 3.92倍
いなべ市(2025年) 29店 5店 5.80倍
熊本市(2025年) 100店 記事に記載なし —

※ 熊本市は、認定審査記録に必要店舗数の記載が見当たらないため、倍率を計算していません。

この表を読むときの注意点があります。

基準5の店舗数は、GMS・スーパー等でフェアトレード産品が販売されている場合も0.5店ないし1店として数えています。したがって店舗数の増加には、取扱いを把握・計上できる体制が整ったことによる面も含まれます。

(出所:内山代表理事の説明(2026年8月30日))

この記事に並べた数字は、いずれも基準5のカウント数です。市ごとに、また同じ市の審査回ごとに、取扱いをどこまで把握・計上できていたかは異なります。市の間の比較にも、1つの市の経年の変化にも、この点が含まれています。

倍率が1に近い市ほど、1つの事業者の判断で基準を割り込みます。

名古屋市では2023年5月、市内の大手コーヒーチェーンが取扱いを中止し、62店分が一度に失われました。申請日時点で厳密に数えると基準を下回り、2024年の更新は「次回までに基準を満たす店舗を把握する」という条件付きでの適合と判断されています。

逗子市の36店の内訳を見ると、広域展開する事業者はオーケー、カルディコーヒーファーム、スターバックス、生協(ユーコープ)にとどまり、残りは個人商店と地元事業者です。倍率3.92倍という余裕は、チェーンの数ではなく地元店の数によって作られています。

倍率の高い市に共通するのは、個人商店を1軒ずつ増やしてきたという経過です。チェーン1社の導入は数字を一気に動かしますが、離脱も一気に起きます。

5. 専門店(推進店)をどう確保するか

基準5には、取扱店の数とは別にフェアトレード産品を主に扱う店(専門店・推進店)を1店以上という要件があります。ここでつまずいた事例が浜松市です。

認定時、専門店として挙げられた3社(豆乃木、JOEL、Sunshine Verdi Island)はいずれも実店舗を持たない卸・出店販売でした。この状態は2020年の更新で解消しています。

今回は「zakka+fairtrade晴天」がタウン認定をきっかけに専門店として開業しており、完全に基準を満たすこととなった。

認定が専門店を生んだ事例です。申請の時点で専門店がないことは、それ自体で申請を止める理由にはならない、という前例としても読めます。

6. 数え方が2つあることに注意する

基準5のカウント数と、自治体が発行するマップの掲載店舗数は、別の数字です。

市 基準5のカウント数 市(または推進組織)のマップ掲載数
いなべ市 29店(2025年) 38店舗(令和7年5月現在)
熊本市 100店(2025年) 81店舗(市国際課発行)
逗子市 23.5店(2025年) 32店舗(2021年8月5日現在)

カウント数は「2品目以上を扱う店を1、1品目のみの店を0.5」として合算した値です。マップは掲載の可否や更新時点が別に決まります。広報でどちらの数字を使うかは、揃えておいたほうが混乱がありません。

7. 申告した店舗数は、どこまで裏を取られるか

基準5は自己申告で成立するものではなく、審査側が抽出して確認します。ただし、その水準は事例によってばらついています。

市 直接確認した店舗数 申告数に対する割合
浜松市(2020年・2023年) 2023年は26店舗 約20%(2回とも)
いなべ市(2025年) 9店訪問+2店を口頭・写真で確認 申告数の20%(6店舗)以上をクリア
札幌市(2019年) 47店 20%超
札幌市(2022年) 8店 —
札幌市(2025年) 24店 13.3%(20%に6.7%不足)
鎌倉市(2025年) 5店舗(すべてで販売を確認) 記録なし
大府市(2026年) 5件 記録なし
熊本市・名古屋市・逗子市 審査記録に方法の記載なし —

札幌市の2025年の審査報告書は、不足をそのまま書いています。

この24店舗は人口1万人当たり必要数(196店)の内の13.3%であり、これは20%に6.7%不足している。

2019年の札幌市の審査では、確認できなかった5店を差し引いて216店として判定する減点方式が採られました。この方式はその後行われていません。

なお札幌市の申告リストは、北星学園大学の「フェアトレード」科目(通年4単位)の夏休み課題実習で学生が店舗を訪問・聴き取りした結果を基礎にしています。認定委員会はこの調査が「学術的かつ学生にとって評価のともなう厳正なもの」であることを確認したうえで、通常の裏取りの代替として了承しました。ただし2025年時点で使用できる最新リストは2023年度のものです。

【FTFJ編集部による解説】これから申請する自治体へ

1. 基準5は「集める」より「支える」で伸びています。 取扱店を増やした事例に共通するのは、店を説得する工夫ではなく、店の手間とリスクを引き受ける仕組みでした。いなべ市の6項目は、そのまま点検表として使えます。

2. 倍率1.1倍以下の状態は、認定の維持という観点では安定していません。 チェーン1社の方針変更で基準を割ります。認定を取った後も、地元店を1軒ずつ増やす作業は続きます。

3. 人口が減る自治体では、必要店舗数が自動的に下がります。 浜松市の必要数は、審査時点で81店(2017年の認定時)→79店(2020年の1度目の更新)→79店(2023年の2度目の更新)と推移しました。77店は2026年現在の人口による値で、審査時点の値ではありません。 必要数を下回らなくなったことと、運動が広がったことは別の話です。記事や広報で両者を混ぜないでください。

4. 数字の出所を1つに決めてください。 カウント数とマップ掲載数、申告数と確認数。1つの市のなかに複数の数字があり、どれを使うかで印象が変わります。

5. 裏取りの水準について(FTFJへ) 「申告数の20%以上を直接確認する」という運用は、浜松市といなべ市の審査では明示的に適用され、札幌市の2025年審査では不足が明記されました。一方で鎌倉市・大府市の審査記録には割合の記載がありません。この20%が明文の規定なのか運用上の目安なのかを確認し、確定させる必要があります。この点は、認定を受ける側にとっても準備の見通しに関わります。


参照した公開情報

  • いなべ市「いなべフェアトレードタウンマップ」(令和7年5月現在)
  • 熊本市国際課「フェアトレードマップ」
  • 逗子市「逗子フェアトレードMAP」(2021年8月5日現在)